なぜ大学のポスターは「世界にはばたき」「未来を拓く」ばかりなのか:こだわりバカ(3/6 ページ)
「ここに集い、世界に旅立つ」「ともに学び、探求し、共に世界を切り拓く大学」――。大学のスローガンは、なぜ手垢がついた表現ばかりなのか。自称「大学コピーコレクター」の川上徹也氏が分析したところ……。
大学の空気コピーはなぜうまれるか?
それぞれの大学の名誉のために言っておくと、前ページのようなスローガンは、決していい加減に決めたわけではないはずだ。
私自身、ある大学のスローガン設定に関わったことがあり、このような文言が簡単には決まらないというということを身に染みて知っている。理事長・学長、執行部の承認はもとより、教授会やOB会をはじめいろいろなステークホルダーが存在し、様々な意見が寄せられる。ポジティブなものならいいが、多くはネガティブな視点でチェックするものだ。規模の大きな大学になればなるほど、簡単には決まらないものなのである。そんな難関をくぐりぬけてきた言葉なのだ。
そもそも最高学府の教授や職員がその英知を集結して(外部の優秀なブレーンの力を借りて)、何とか少しでも自分の大学をよく思ってもらいたいという一途な思いで産み出したはずの言葉である。それが、こんな風にどこも同じような「空気コピー」になってしまうのはなぜだろう?
理由は3つ考えられる。
(1)集合知によって無難なものになっていく
このようなスローガンが決まるまでに、多くの人からの意見が寄せられる。前述したようにネガティブチェックも数多く入る。すると、どうしても当たり障りのない無難なもの(どうでもいいもの)になっていく傾向がある。
(2)自分の大学ことしか考えていない
多くの大学では視野が内向きになってしまっている。つまり、スローガンを考えるときに、自分の大学のことしか考えない。他の大学との差別化など競合という視点がない。どこの大学も目指す目標にそんなに大きな差があるわけではないので、結果としてどこも似たような空気コピーが生まれてくる。
(3)そもそも広告の効果がほとんどない
大学のイメージを変えるにはかなり長い時間が必要になる。どんなにいい広告・広報活動をしたとしても完全にイメージが変わるのは一世代が替わるくらいの年月が必要だ。一般企業のように広告の優劣によって、すぐに売り上げが大きく変わるなどということもない。そのような理由から、空気のようなポスターでも「ま、いいかと」なる。
以上のような理由で、大学のスローガンは「空気化」していくと考えられる。これはお役所が発信する言葉の多くが「空気化」するのと同じ原理だ。
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