福島・只見線復旧問題――なぜ降雪地域に鉄道が必要なのか:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/4 ページ)
2011年の豪雨被害で不通になっている只見線について、福島県と地元自治体が「運行再開後の赤字、年間3億円を補てんする意向」と福島民報が報じた。鉄道を維持する利用者が見込めないと分かっていながら、それでも鉄道を残したい。その悲痛な思いはJR東日本と国に届くだろうか。
只見線問題をフクザツにする「歴史」
うがった見方をすれば、只見線沿線の自治体にとってダムは主要産業の1つ。ダム自身がそれまでの洪水を防いでくれたとも言えるし、多少なりとも経済的恩恵もあっただろう。原子力発電所ほどではないにしても、水力発電所も地域と互恵関係にあったはずだ。そもそも、只見線の建設自体がダム建設に深くかかわっている。
只見線は福島県会津若松から新潟県小出までの135.2キロメートル。山間をゆく長大なローカル線だ。このうち福島県側の会津若松から会津宮下まで、新潟県側の小出から大白川までは戦前に官営鉄道として開業している。山間部は戦後になってからの建設だ。会津宮下から会津川口までは田子倉ダム建設のために延長した。会津川口から只見は電源開発株式会社のダム建設用の線路だった。ダムの完成後、用済みとなった線路を国鉄路線として組み入れた。残る只見〜大白川間の開通は1971年だった。
つまり、只見線の不通区間はもともとダム建設のために、洪水の当事者だった電源開発が建設している。そうはいっても電源開発にとっては「不要になったから国鉄に譲った」わけで、もはや無関係だ。JR東日本としても、国鉄時代に引き受けた路線であり、そもそも建設当時の低規格な路線である。現在の安全基準に照らして「高額な費用で復旧させる義理はない」という考えが透けて見える。ダム建設のために作り、とっくに用済みになっていた区間だともいえる。
こうした経緯があるから、只見線の不通区間については責任問題に触れられない。文字通り水に流して、今は鉄道回復の手法を共に見つけ出したい。
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