試される鉄路、北海道新幹線は「本当はできる子」:杉山淳一の「週刊鉄道経済」 2016年新春特別編(2/5 ページ)
2016年3月に北海道新幹線が開業する。運営主体のJR北海道にとって、今までの事故、不祥事などの暗い過去から立ち直り、新たな一歩を踏み出すチャンスだ。公開された列車ダイヤと航空ダイヤを比較してみたら、もっと盛り上がっていいと思った。
北海道新幹線は「本当はできる子」
冒頭からちっとも新年らしくない話になっているけれど、暗いと不平を言うだけではなく、明るくなる話をしよう。北海道新幹線は「所要時間4時間超え」を強く印象付けてしまったけれど、公開されたダイヤを基に調べてみると「本当はもっとできる子」である。東京〜函館間は厳しくても、それ以外の区間の所要時間は航空便と対抗できる。滞在時間に注目すれば、東京〜函館間にも勝機はある。
北海道新幹線の列車の時刻は2015年12月18日に発表されている。2016年3月ダイヤ改正の資料の1つだ。それを見ると、北海道新幹線の列車は、基本的には東北新幹線の速達タイプの「はやぶさ」を新青森〜新函館北斗へ延長しただけのようだ。そこで、東北新幹線は現行ダイヤと同じと仮定して、東北新幹線各駅から新函館北斗駅までの所要時間の変化を比較してみた。北海道新幹線下り最速の「はやぶさ」に乗り継ぐという前提だ。
新幹線と航空機のシェアの境目「4時間」を超える駅は、実は少ない。東京、上野、小山、那須塩原、新白河だけ。東京・上野は遠いから仕方ないとして、大宮は3時間30分台である。小山はいったん大宮に戻って「はやぶさ」に乗り継ぐと早い。それでも4時間1分かかる。那須塩原と新白河の所要時間が長い理由は、両駅に停まる列車自体が少ないからだ。
はやぶさ停車を強く望んでいる宇都宮も、実は乗り継ぎで4時間を切っている。ここから北へ向かうほど、所要時間は短くなっていく。現行ダイヤのままという前提で調べているけれど、もし3月のダイヤ改正ではやぶさへの乗り継ぎを考慮した「やまびこ」が設定されていたら、所要時間はもっと短縮できそうだ。
各駅から航空便を利用した場合の所要時間も調べた。羽田空港利用を考えるから、北の駅ほど時間がかかる。実は宇都宮の1つ先、那須塩原が境界線。ここから北は4時間超え。新幹線利用とほぼ同じ時間になった。宇都宮駅でもきん差で航空便が速いけど、荷物検査の時間や料金などで利用者の判断が揺れ動く「浮動票ゾーン」と言えそうだ。
福島空港、仙台空港、花巻空港は函館便がない。何と最短時間はいったん千歳空港へ飛び、函館便で折り返すルートになる。これは料金的に見合わないだろう。所要時間だけを比較すれば、現在の東北新幹線を使うルートより早い。両者の所要時間の境目は福島駅だった。
つまり、東京中心に考えれば北海道新幹線の魅力は薄いと感じるけれど、北関東以北と新函館北斗の所要時間はかなり改善される。道南と東北の連携によって、観光やビジネス面で北海道新幹線のチャンスはある。函館空港には台湾と中国からの国際線も飛ぶ。仙台空港もそうだ。北海道新幹線と東北新幹線を組み合わせて、函館と仙台を回遊するインバウンドのルートができる。
東北・北海道新幹線各駅と新函館北斗・函館・函館空港の所要時間比較。新幹線の所要時間はJR発表の時刻表から、従来の鉄道所要時間と航空便は大手検索サイトで06時00分発の最短時間。所要時間が早いほうを黄色で示した
現在の東北新幹線の時刻表にJR発表の北海道新幹線の時刻表を追加し、列車ダイヤを作成した。東北新幹線部分は2016年3月ダイヤ改正で変わると思われる。赤が北海道新幹線直通の「はやぶさ」、緑は東北新幹線内の「はやぶさ」、青は「はやて」、黒は「やまびこ」「なすの」など。列車ダイヤ描画ツール「Oudia」を使用
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