試される鉄路、北海道新幹線は「本当はできる子」:杉山淳一の「週刊鉄道経済」 2016年新春特別編(3/5 ページ)
2016年3月に北海道新幹線が開業する。運営主体のJR北海道にとって、今までの事故、不祥事などの暗い過去から立ち直り、新たな一歩を踏み出すチャンスだ。公開された列車ダイヤと航空ダイヤを比較してみたら、もっと盛り上がっていいと思った。
朝の新函館北斗発、夜の東京発は航空便より優位に
航空便は東京〜函館の所要時間で北海道新幹線に対して圧倒的に優位だ。しかし、その航空便にも弱点がある。「ナイトステイ未対応」だ。ナイトステイは飛行機が空港で1泊する運用だ。深夜に到着した飛行機が、空港で朝を迎えて始発便となる。そのためには夜間照明、整備場、乗務員や整備士など人件費や宿泊設備が必要だ。ナイトステイは、航空各社の要望で空港側が設備を整え、航空会社が人員を配置すると可能になる。
函館空港はナイトステイができない。羽田便の場合「羽田を出発して羽田に戻る」が運用単位となる。その結果、函館発の始発便は羽田からの到着便を待つため遅くなるし、東京から函館へは早めに出さないと羽田に戻れない。
2015年12月現在、航空便で羽田発函館行きの最終は17時30分発のJAL589便。函館着18時50分。北海道新幹線は東京駅19時20分発の「はやぶさ33号」があり、新函館北斗着23時33分だ。新函館北斗には深夜着となるけれど、北海道新幹線は飛行機より約2時間遅くまで東京に滞在できる。金曜の夜から函館を旅行したいとき、飛行機なら早引けだけど、北海道新幹線は定時まで会社にいられるかもしれない。
航空便で函館発羽田行きの始発便は8時55分発のADO58便で、羽田着は10時25分。北海道新幹線は新函館北斗6時35分発の「はやぶさ10号」で、東京着は11時04分。北海道新幹線は2時間半も早起きしなくちゃいけないけれど、東京着は30分遅いだけだ。運賃が安ければ北海道新幹線で、という選択もアリだろう。ここはJRの営業施策に期待したい。
もし、航空便が本気で北海道新幹線に対抗するなら、函館空港のオーバーステイを始めるだろう。函館市も「函館市観光基本計画2014-2023」でオーバーステイの実現を目指しているし、国会でも木古内町出身の議員が衆議院で何度か質問し、国が働きかけることではなく航空会社の施策を尊重するという趣旨の答弁を得ている。
国土交通省の航空便の統計資料によると、東京〜函館線は、平成27(2015)年上半期で58万8507人が利用した。この実績は国内路線の旅客数で17位。利用率(搭乗率)は70.1%で、国内路線の52位となっている。航空便の損益分岐点は搭乗率60%と言われているそうだ。約70%という数字は、なんとか赤字にならない程度とも言える。今まで函館空港の航空便の利用客は減少傾向とも言われており、コスト面を考えると、函館空港のオーバーステイは難しそうである。そうなると、東京駅19時20分発の「はやぶさ33号」がビジネス客、観光客ともに人気列車となりそうだ。
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