今後期待の省燃費技術は?:池田直渡「週刊モータージャーナル」 2016年新春特別編(3/5 ページ)
ここ数年の自動車業界を振り返れば、「省燃費技術の時代だった」ということになるだろう。そうした中にあって押さえておきたい自動車推進装置は3つに代表される。
ポストハイブリッドの一番手はディーゼル
ディーゼルはどうか? 日本国内に限って言えば、ここ数年ディーゼルの復興が著しい。PM(粒状物質)の問題で2003年から首都圏で規制をかけられ、一時は乗用車用エンジンとしてはほとんど一掃されてしまったディーゼルが、排ガス浄化技術の進歩とともに復活した。単に復活したのみならず、今ディーゼルは売れている。ディーゼルに力を入れているマツダでは、多くの車種で少なくとも販売台数の半数程度がディーゼルになっているし、中にはディーゼルエンジンしか搭載しないモデルすらある。ポスト・ハイブリッドとして、ディーゼルはだいぶ市民権を得つつあると思う。
ディーゼルの美点は、豊かな低速トルクによる運転のしやすさと、定速巡航時の燃費の良さだ。エンジンそのものの省燃費素養が高い上、燃料費も安いので、燃料コスト全体が安い。もちろん燃料コストは現時点での話で、今後の受給バランスによってはほとんど差がなくなることもあり得る。そのあたりは国際情勢と国内需要によって左右される部分だからだ。
現在のディーゼルエンジンはほぼ例外なく過給エンジンなので、どうしてもターボ特有の欠点は出る。構造的にスロットルロスがないディーゼルエンジンは、ガソリンエンジンより有利とはいえ、低回転では過給の遅れが多少なりとも感じられる。低速で加減速を繰り返す市街地での燃費に限って言えば、エネルギー回生ができるハイブリッドに適わない。しかし、例えば、毎日の通勤で高速道路を使う人であれば、ハイブリッドより良い選択になるだろう。要するにハイブリッドとは得意な運転状況が違うのだ。
では弱点は何か? これまでも繰り返し書いているが、いくらクリーンディーゼルだと言っても、それは昔のディーゼルと比較しての話。ガソリンエンジンに比べたらはるかに環境負荷は大きい。今後、排ガス規制がどの程度まで強化されるかが、ディーゼルの未来を決める分岐点になるだろう。
排ガスでいえば、低温下の始動直後も相当苦しい。ディーゼルはその仕組み上、温度依存性がガソリンエンジンより高いからだ。昔の規制は暖機の済んだエンジンで測定されていたが、よりリアルな運転状況でのクリーン性能が求められた結果、冷間時での始動もチェックされるようになった。
問題はその時の外気温設定。現在の温度設定ははっきり言えばお目こぼし的なもの。外気温が0度近くになることは首都圏でも珍しくないにもかかわらず、恐らくその温度で測定して規制をクリアできるエンジンはまだ世界に一台もないだろう。しかも世界を視野に入れれば、0度という温度はまだ緩すぎる。国内の寒冷地ですらマイナス25度になる地域があるのだ。こうしたさまざまな面から見て、ディーゼルにとっては排気ガス規制の行方が存亡を分ける可能性をはらんでいる。
関連記事
- 世界一をかけて戦うトヨタに死角はないのか?
フォルクスワーゲン、GMとともに自動車業界の「トップ3」に君臨するトヨタ。しかし、この2社をはじめ、世界のほかの自動車メーカーにもない強みがトヨタにあるのだという……。 - 「常識が通じない」マツダの世界戦略
「笑顔になれるクルマを作ること」。これがマツダという会社が目指す姿だと従業員は口を揃えて言う。彼らは至って真剣だ。これは一体どういうことなのか……。 - 新型プリウスはどうなる? 新戦略で転機を迎えるトヨタのハイブリッドシステム
世界一の自動車メーカーになるために、工場改革と自動車のモジュール化を進めるトヨタ。TNGA戦略のもう一つの鍵が、2015年中に14機種発表されるという新エンジンだ。 - トヨタの燃料電池自動車「MIRAI」の登場で、ガソリンエンジン車はなくなる?
夢の燃料電池車(FCV)――トヨタが発表した「MIRAI」は大きな話題となった。ありあまる水素を燃料にできるFCVは究極のエコカー。FCVが普及すれば、将来、ガソリンエンジン車は駆逐されるのだろうか? - 「週刊モータージャーナル」バックナンバー
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.