中国政府がいま最も恐れているのは、ネット上の「くまのプーさん」:世界を読み解くニュース・サロン(4/4 ページ)
中国共産党がネット上の検閲に力を入れている。いわゆる「サイバーポリス」と呼ばれる工作員が反政府的な発言などをチェックしているが、2015年に最も削除された発言は……。
人民の意識を必死にコントロール
こうした結果から、中国共産党は人民の怒りの矛先が中央政府や役所に向くのを警戒しているのが分かる。そしてインターネット網とネットワークがどんどん拡大する中で、人民の意識をコントロールしようと必死になっている様子も想像できる。中国共産党によれば、中国には7億に達するWebサイトが存在し、12億人が携帯電話を使っており、1日に300億件のポストがインターネット上で行なわれている。そして、当局はそれらを検閲するのは不可能だと今も否定しているが、一方でインターネットを「規制」していることは認めている。
今となっては誰も中国が検閲を行っていないなどとは思っていない。しかも実のところ最近では、公然と、今以上にネット規制を正当化しようとする姿勢を鮮明にしている。米CNNによれば、中国は今、国際的な取り決めではなく、国家が国内インターネットを自在に統治できるよう国連に働きかけ続けているのだ。
また中国は現在、さらなるネット規制のために法的な措置を強めているとの指摘もある。新しい対策として、当局は安全保障という名の下にインターネットへのアクセスを遮断できるようにしようとしたり、噂を流布する行為に今よりも厳しい罰則を科そうとしている。また、2015年12月には政府が反テロ法を可決してインターネットの監視などを強化する決定をした。さらに最近、政府高官は大手サーバーなど重要なIT企業には社内に当局者を配置する予定であるとも公表している。
香港大学のフー准教授は今のところ、中国当局から警告や脅迫などは受けていない。だが同センターの取り組みは欧米のメディアで次々取り上げられ、話題になっている。目立っているために、いつ何時、冒頭の書店に起きているような事態が起こってもおかしくない。
フー准教授はそういう危険な環境で、「くまのプーさん」が強化する検閲活動をウォッチする活動を続けている。
筆者プロフィール:
山田敏弘
ノンフィクション作家・ジャーナリスト。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト研究員を経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)がある。
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