タレントマネジメントを実践する企業の実情(4/6 ページ)
タレントマネジメントを導入する企業が増えつつあるが、具体的にどのように活用しているのか。インテリジェンスHITO総合研究所の渕田任隆氏に話を聞いた。
国内企業の例:「タレントマネジメント」とはあえて呼ばない人材育成
――国内企業が導入しているタレントマネジメントの事例を教えていただけますか。
渕田氏: サービス業を展開し、国内事業をさらに強化したいというA社は、タレントマネジメントとはあえて呼ばないタレントマネジメントを展開しています。人材評価は上司や人事スタッフなどによる属人性の高い方法に依存しない形で、情報を見える化して客観的に評価する仕組みを導入し、適材適所を実現しています。
これまでは、人材の特長は上司や人事スタッフの頭の中にあったのですが、その頭の中の情報には“漏れ”も多い状況でした。また、特定の人に依存する評価や配置では、自社内に“見えない人材”が多く存在してしまう状況が生まれます。そこで、人材を正確に把握して、客観的な情報に基づいて適材を配置していこうという考えを実践したのです。
また、人材の育成プロセスを振り返るトレーサビリティを実現し、育成過程を把握することで今後の育成課題を考えていくことも可能になりました。こうした改革によって、人材の底上げを目指しているのです。私たちがコンサルティングを行っていくと、「個人の能力を生かし、組織のパフォーマンスを高めるための異動をどうやっていくか」「過去の考課情報が取り出しにくく、客観的な判断材料が乏しい中で、昇格の判定をどうやっていくか」というのは、企業の人事マネジメントにとって大きな課題であることが見えてきます。
――そのほか、タレントマネジメントの事例はありますでしょうか。
渕田氏: 日本に本社があり、海外で複数の拠点を束ねる地域統括会社を設立しているケースがあります。シンガポールにはこの地域統括会社が数多くあるのですが、ある企業は、日本の企業が海外拠点全てのタレントマネジメントをしていくことが困難であるために、地域統括会社がその役割を担うという場合があります。シンガポールを中心に、タイ、インドネシア、マレーシアといった近隣国の拠点がぶら下がるのです。
ただ、国によって施策も違い、法律も違うので、全ての人材を一元的に管理していくというタレントマネジメントを実現することは難しい。とはいえ、トップ層のマネジメントはきちんとやっていく必要があるので、優秀層を発掘・育成するタレントマネジメントを導入しています。しかし、アジア各国は日本と労働事情が大きく異なり、社員に対して魅力的な報酬を提示できていなかったり、上のポジションになかなか上がれなかったり、といった事情を背景に、社員の定着率を高めることが難しいという課題があります。魅力的なキャリアパスと、地域で統一された人事インフラ(人材評価、人材グレードと報酬)を整備する必要性を感じ、今まさに進めているところです。
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