一円電車から6400キロ超えの弾丸ツアーまで 「鉄旅オブザイヤー2015」をおさらい:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/4 ページ)
旅行会社による鉄道系企画旅行を品評する「鉄旅オブザイヤー」の表彰式が開催された。受賞作品、ノミネート作品から、旅行会社が取り組む市場が見えてきた。それは鉄道、旅に限らず、趣味性の市場に共通のキーワードかもしれない。
ルーキー賞は高齢参加者多数の「鉄道弾丸ツアー」
ルーキー賞は、過去に受賞歴のない旅行会社の企画から注目の作品が選ばれる。今回は、びゅうトラベルサービスの『3つの寝台列車乗り比べ JR最北の稚内駅・最南の西大山駅』が受賞した。1日目は寝台特急カシオペアに乗り、2日目は稚内に到達して宿泊、3日目は札幌に戻り、夜行急行はまなすで青森へ。4日目は新青森から新幹線を乗り継いで鹿児島中央へ一気に南下。5日目はJR最南端の西大山駅にタッチし、折り返して宮崎泊。6日目は山口市の湯田温泉に宿泊、7日目は出雲市からサンライズ出雲で東京に戻る。
7泊8日、総移動距離は6494.9キロメートル、18本の列車を乗り継ぎ、乗車時間は76時間4分の大旅行だ。3つの寝台列車に体験できるだけでも魅力的な上に、4日目の新幹線大移動の大胆さ。さらに驚いたことは、参加者16人の平均年齢が62.3歳というシニア層だったことだ。新幹線はグリーン車、カシオペアはA寝台個室、サンライズもシングル個室、途中に宿泊もあったというけれど、はまなすは開放式B寝台だし、新幹線の大移動は若い人でもハードスケジュールだ。
びゅうトラベルサービスは「大人の休日倶楽部」向けツアーを手掛けているから、シニアの顧客層に支持を得ている。それが参加者の年齢に反映していると思われる。つまり、シニア層の参加を見越してこの弾丸ツアーを計画したわけだ。勇気のある企画である。日本の60代は元気だ。そもそも、大人の休日倶楽部で最も行動的な層は70代女性である。それに比べると60代はワカゾーだ。年寄り扱いしてはいけない。もっと冒険していただきたい。
旅行業界が取り組む顧客層が現れた
鉄旅オブザイヤー2015の受賞5作品を見ると、それぞれの顧客層が日本の旅行市場のターゲットを象徴している。ルーキー賞の「シニア世代」、審査員特別賞の「鉄道趣味層」と「ミドル世代」、準グランプリの「女性層」だ。これらはすべて、可処分所得、可処分時間ともにゆとりの多い層と言える。旅行業界は、これらのターゲットに対して積極的に企画を繰り出し、個人旅行ではできない体験を開発している。
グランプリの「ファミリー層」は、実は上記ターゲットとは異なるカテゴリーだと私は思っている。親子連れの旅は、一人あたりの参加費が低くても総額は大きい。しかし子育て世代のおサイフの口は固い。父親は働き盛り、母親も子育てにパートにと忙しい。子どもの休日は限られている。つまり、可処分所得、可処分時間ともに、シニア、ミドル、趣味層よりずっと少ない。
その中で、JTBの「旅いく」の取り組みは、市場開拓という意味では大変なチャレンジだ。ポイントは、教育の味付けをすることで、親の満足度を高めたところだろう。子どもにとっては得がたい経験となる。小中学生の、趣味嗜好が形成する時期に「旅は楽しい」という経験をしていただく。その経験が下敷きになって、将来にミドル、シニア、趣味層になったとき「旅に出る」という選択肢が生まれる。「旅いく」に限らず、子ども向けのアプローチは、長期間にわたる市場形成の第一歩だ。
少子高齢化という言葉は、経済用語としては後ろ向きに使われる。しかし、旅行業界にとっては、高齢者は現在の顧客としてメインターゲット。子どもは将来の顧客として取り組む対象、どちらも重要だ。鉄旅オブザイヤー2015では、両方の分野で魅力的な商品が受賞した。現在も未来も市場が成長する。これはとても良いことだと思う。
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