観光列車の増殖と衰退――鉄道業界に何が起きているか?:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/4 ページ)
近年の観光列車の増殖は、鉄道以外の業界からは奇異に見えるだろう。楽しい列車が急に増え出した。いったい鉄道業界に何が起こったか。その手掛かりを得るために、観光列車の定義と分類を試みる。今回は「定義編」だ。
観光列車は専用車両と運行区間の組み合わせ
そして、一般的な観光需要を演出するための設備として専用の車両がある。JRグループでは国鉄時代から「ジョイフルトレイン」と呼ぶ車両を作ってきた。主に団体貸切向けの車両で、ルーツはお座敷列車である。1983年に、団体宴会=お座敷という概念を打ち破る列車が登場する。東京地区に導入された「サロンエクスプレス東京」だ。臨時特急列車用に製造された14系座席客車を改造した。
サロンエクスプレス東京はお座敷車両に対して「欧風客車」という触れ込みで、若者の団体向けに作られた。お座敷列車とは呼べないから、この車両をきっかけにジョイフルトレインの分類名が定着した。現在もJRグループはジョイフルトレインと呼んでいる。
しかし、ジョイフルトレインは主に車両の分類であって、列車の分類ではない。車両は線路設備が対応すればどこでも使える。サロンエクスプレス東京は既に廃車となっているけれど、例えば、485系電車を改造した「華」というジョイフルトレインは、東北も関東も走行できる。それら各地の列車が観光列車として同じとは言えない。JR東日本の臨時列車のプレスリリースでも、列車名「○○号(485系「華」を使用)」と書かれる。つまり、車両と列車は同義ではない。
列車は運行区間を定めて計画されている。そうなると、観光列車は、専用の車両と運行する区間の組み合わせによって定義されるべきだ。そして、観光列車は前述の通り「風景や食事、ショッピングなど、一般的な観光需要を満たす」要素が前提となる。
ここまでの要素で定義すると、観光列車は「風景や車内での特別な食事、特別なショッピングなど、一般的な観光需要を満たし、定められた区間を専用車両で運行する列車」となる。車両は新造でも改造でも、既存車両にテーブルを設置しても構わない。「観光用途専用に仕立てる」のが重要だ。この定義によって観光列車は「移動だけではなく、乗車そのものを目的」にできる。
この定義で、ななつ星 in 九州も、それ以前のレストラン列車の始祖「明知鉄道の寒天列車」も、JR四国の「伊予灘ものがたり」も、すべて観光列車ということで説明がつく。そして、観光地へ向かって走るとはいえ、ビジネス用途でも使える定期便の特急列車は除外できそうだ。
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