「地球外生命体」と「火星移住」を研究する日本人を知ってますか?:宇宙ビジネスの新潮流(4/4 ページ)
人類は火星に移住できるのか? 地球の外にも生命体は存在するのか? そんな夢のあるテーマについて、日米を行き来しながら研究する一人の日本人がいるのをご存じだろうか。
土星の惑星「エンケラドス」に地球外生命体がいる?
第3の研究テーマとして行っているのが、JAXA(宇宙航空研究開発機構)やJAMSTEC(海洋開発科学機構)の研究者たちと、土星に16個ある衛星のうち、第2衛星であるエンケラドスの生命探査計画実現に向けた準備です。エンケラドスは、表面を氷に覆われた直径500kmの小さな星ですが、2005年にNASA/ESAの無人探査機である「カッシーニ」が、宇宙空間に内部の海水が噴出しているのを発見し、有機物が含まれていることが分かっています。
その海水分析を行うことで地球外生命体の存在を調査するのです。そのためには秒速6km(マッハ20)くらいの速度でエンケラドスにフライバイ(接近して通り過ぎながら実験などをする飛行)を行い、粒子サンプルを捕獲する必要があります。その相対速度環境を再現した上で、粒子中に含まれるペプチドを検出するためのエアロゲルの研究などを進めています。
エンケラドスの生命探査はこれまで日本が中心にやってきた研究ですが、昨今NASAが太陽系惑星調査を目的として行っている「ニュー・フロンティア計画」の対象にエンケラドスを加えました。将来的にエンケラドスの周回軌道に探査機を投入して、複数回にわたりサンプル回収を行うか、あるいは、ランダーをエンケラドスに着陸させて、直接サンプルを回収することが想定されます。NASAが回し始めた大きな車輪に日本がどう絡んでいくか、この数年間が勝負の分かれ目だと感じます。
アストロバイオロジーは米国においては、既に確立された学問であるものの、日本における認知度はまだ低いため、地球外生命探査に日本のチームがかかわることで、少しでも多くの日本人がアストロバイオロジーに関心を持ってもらえたら幸いです。もし順調にいけば2020年代に探査機が飛ぶ可能性があるため、地球外生命を見つける大きなチャンスが到来しているといっても過言ではないでしょう。
藤島さんとのインタビューは2時間以上におよんだが、話題は研究テーマを超えて、人工知能と人間、NASAの人材獲得など多岐にわたった。こうした世界最先端の分野で、グローバルに活躍する日本人がいることを知っていただき、藤島さんの切り開いた道を1人でも多くの日本人が歩むことを期待したい。
著者プロフィール
石田 真康(MASAYASU ISHIDA)
A.T. カーニー株式会社 プリンシパル
ハイテク・IT業界、自動車業界などを中心に、10年超のコンサルティング経験。東京大学工学部卒。内閣府 宇宙政策委員会 宇宙民生利用部会 委員。民間宇宙ビジネスカンファレンス「SPACETIDE2015」企画委員会代表。日本発の民間月面無人探査を目指すチーム「HAKUTO(ハクト)」のプロボノメンバー。主要メディアへの執筆のほか、講演・セミナー多数。
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