ボルボの新型XC90は「煮詰まるまで待て」:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/6 ページ)
新型XC90のコンセプトや安全設計などについて高く評価してきた。しかしながら、実際に試乗してみたところ、現実的なセッティングの問題が露呈した。今回はそれに言及する。
「駿馬」ではなく「らくだ」が必要
今回、試乗用に提供されたのは全モデルがT6AWDのエアサスペンション付きモデル。例のDrive-Eパワートレーン用共通ブロックを用いたガソリンエンジンのうち、スーパーチャージャーとターボチャージャーを備えた320馬力、40.8kgmのパワートレーンを搭載する。
パワートレーンのできは良い。2トン超えのボディを4気筒2リッターでまかなえるのかという心配はいらない。組み合わされる変速機は8段トルコンステップATで、変速マナーもギヤリングも良くできている。さすがは320馬力、床まで踏み込んだときの加速に不満のある人はほぼいないだろうし、レスポンス重視のスーパーチャージャーのおかげで、低速からのツキも良好だ。速度の微妙な調整も比較的精度が高いと言える。
XC90には運転モードを統合制御する「ドライブモード」の切り替えがあり、デフォルトのほかに、「エコ」「ダイナミック」「オフロード」と、ユーザー独自セッティング用の「インディビジュアル」が選べる。現実的に快適なのはデフォルト設定だと思うが、ダイナミックにしたときの少々過剰な演出が効いたスロットル反応は好きな人もいそうだ。とにかくパワートレーンは高レベルで、問題はない。
問題は主にハンドリングにあった。XC90はフルサイズのSUVである。普通に考えて200キロオーバーでアウトバーンをぶっ飛ばすクルマではない。このクラスでそんなクルマ作りをしているのは、ポルシェ・カイエンのターボモデルなどの限られたクルマだけだ。別に速さや高機動性能があってはいけないということではないが、大抵は超高速性能と引き替えに低速で何らかの我慢を強いられる。本筋は明らかにそこではない。大事なのは、メインマーケットの北米でインターステートハイウェイを制限速度の時速65マイル(約105キロ)で、寛いで巡航できる性能だ。ひよどり越えを駆け下りる駿馬ではなく、月の沙漠を着実に踏破するらくだのような性格が求められているのだ。幸いなことに、日本の高速道路も概ね時速100キロ制限なので、この点で良くできていれば日本のユーザーもご相伴に与ることができる。
ところが、一番の減点はその安楽性能だった。直進安定性がここ最近のボルボの水準に達していない。恐らく近年のボルボの中で一番悪いだろう。「だろう」と書いたのはバネの種別やタイヤサイズでもかなり変わる要素があるからだ。全モデルの全タイヤサイズを試していないから断言を避けているだけで、たとえこのグレードだけだとしてもCセグメントのV40より、XC90が直進安定性で劣るというのは、両車のマーケットにおける高速道路の重点比率から考えても問題があるだろう。XC90はフラッグシップなのだ。
一般論で言って、直進安定性を決めるのはリヤサスペンションの設計だ。クルマが走っているとき、リヤタイヤは風見鶏のしっぽのような役割を果たしている。できるだけ逆らわず素直に追従した方が直進安定性は高くなる。
エアサスペンションモデルのリヤサスの写真を拡大して、上下のサスペンションアームの長さを比べると上が短い。これ自体はそんなに珍しいことではないが、原則的にアッパーアームが短ければストローク時にタイヤが傾いてクルマをボディ側に押す力が発生する。10円玉を傾けて転がしたときと同じ理屈だ。
この傾きをキャンバー角と呼ぶのだが、XC90のリヤサスペンションはこのキャンバー角変化をうまく使えていないように思う。加えて、アルミ鋳造で取り付けスパンを広く採ったロアアームと比べ、アッパーはボディ側もハブ側も取り付けスパンが狭い。基本的な応力はロアで受け止めアッパーはほとんどコントロールアームに近い補助的な役割に終始しているように思う。アッパーアームの能力は果たしてこれで足りているのだろうか?
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