地ビールブームから一転、8年連続赤字で“地獄”を見たヤッホーブルーイング:新連載・「よなよなエール」流 ガチンコ経営(3/5 ページ)
現在、11年連続で増収増益、直近4年間の売り上げの伸びは前年比30〜40%増と、国内クラフトビール業界でダントツ1位に立つヤッホーブルーイング。しかしここまではいばらの道だった……。井手直行社長が自身の言葉で苦闘の日々を語る。
3年間で売り上げが半分に……
ところがです。創業して3年ほど経った2000年を境に状況は一変します。急によなよなエールの注文が激減したのです。地ビールブームの終焉がやって来たのです。それでも、当時はその状況をよく理解できませんでした。遅ればせながら本来の営業としての仕事に熱を入れ始めました。考えられることは全てやったつもりです。例えば、営業の基本(と当時は考えていた)として酒屋さんやスーパーの仕入れ担当者を訪問し、次のように頭を下げながら話し始めるわけです。
「よなよなエールをもう一度扱ってください! ポスターも用意しています。パンフレットも。在庫もたくさんあるので明日にはお届けできます。ちょうど現金が当たるキャンペーンもやっているんです。どうかよろしくお願いします!」
それに対する返答は大体同じでした。
「もう地ビールを飲みたいなんて言う人はいないんだよ。よなよなエールも以前は売れたけどもうさっぱり売れないね。悪いが帰ってくれ」
こんなやり取りが何十回、何百回と続きます。営業スキルもなく、頭も悪い私ですが、取り柄が一つだけありました。元気で体力には自信があるということです。ですので、断られてもまたしばらくするとお店を訪問するのです。こんなことを繰り返して、事態が打開できるのかというと……そういうことはまるでなく、あまりに私がしつこいので、そのうち訪問先の方に居留守を使われたり、門前払いにあったりするようになります。
悔しかった。まさに天国と地獄の両方を経験しました。よなよなエールを売りたくても、消費者に届く前の酒屋さんやスーパーで拒否されてしまうとは。ブームが去ったとはいえ、それでもよなよなエールのファンはまだある程度はいたので、その方たちにビールを届ける手段がどんどんなくなっていく虚しさは、もう言葉にできないほどでした。
ある年の売り上げは前年比80%でした。マイナス20%はかなり痛い。でも開き直って80%は維持できているので良しと考えることにしました。ですが、3年続けて前年比80%成長となれば、何と3年前の売り上げの半分になってしまうのです。こうなると会社の雰囲気はもう最悪です。以前はそれなりに仲も良かったスタッフたちが、あまり話をしなくなり、笑顔もなくなります。愚痴や不満が増えてきます。それも不満を言いたい相手の前では直接言わず、その人がいない場所で悪口、陰口が横行してきます。
それが段々ひどくなり、会社の行く末に希望をなくしたスタッフが一人、また一人と会社を辞めていき、気が付くと会社には半分のスタッフしか残っていません。会社の売り上げが伸びているうちは良いのですが、悪くなるとこうも人の心は簡単にバラバラになるものかと痛感しました。辛くて苦しい体験でした。
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