ショーンKはいまだに世間を欺いている(2/3 ページ)
経歴詐称は、学位職位の万引き。多くの人々から、ほんのわずかの可能性を少しずつかすめ取ってきて、自分の私利私欲に資する。自分の可能性を奪われた人は、やつに奪われたことにすら気付かない。
ショーンKの例も、思いっきり拡大してみよう。例えば、就職活動。子供のころから君はその仕事にあこがれてきた。そのために君は苦労して受験勉強をして有名大学に入り、関連する資格も取り、経験も積んで、ようやくいまその最終選考まで残った。ところが、もう1人候補者が残っている。それがショーンK。ハーバード大卒だと。案の定、君は落とされる。君は別の人生を歩まなければならなくなる。君の人生、夢も現実も、すべて彼に奪われた。後になってショーンKの経歴詐称がバレても、君の人生はもう取り戻せない。
こんなはっきりした悪行も、薄めてしまうと見えなくなる。1000人が応募した企業の100人の採用者の中にショーンKが1人、紛れ込んでいた。本当なら、別の誰か1人が合格したはず。しかし、それが残りの900人の誰かは、誰にも分からない。つまり、900人から広く薄く、それぞれの学生が持っていた合格可能性をそれぞれから900分の1ずつかすめ取って、彼は自分の1/1の合格を捻出してしまったのだ。もともと可能性など目に見えるものでなし、落ちた900人は、誰も何を盗られたのかもまったく気付かない。
ショーンKが最初から正直に経歴を示していれば、彼が大和証券の経済番組や講演会を担当することなく、もっと別のしかるべき人物が担当していたはず。『報道ステーション』でも、『とくダネ!』でも、もっと別の、しかるべき人物がコメンテーターになり、人の意見をオウム返しに肯定する以上の、もっときちんとした鋭いツッコミを入れていたはず。そうであれば、東芝やシャープみたいないいかげんな会社の経営陣も出てこれなかったかもしれないし、社会問題もきっちり追及されもっと深く考察され、その後の事件の繰り返しが防げていたかもしれない。
だが、それは可能性にすぎない。彼でなかったとしても、なにも変わらなかった可能性のほうが高い。つまり、誤差の範囲。だが、詐欺師はこの誤差をかき集めて、自分1人分を捻出し、自分の身勝手な私利私欲のために社会から搾取する。おまけに、もともと誤差の範囲だものだから、誰もじつは自分の、そして社会のほんのわずかな、もっと向上できたかもしれない可能性が彼に奪われてしまったことに気付かない。
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