「テケツや!」――朝ドラ『あさが来た』の鉄道事情:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/4 ページ)
近代日本において、女性の社会進出の道を切り開いた実業家、広岡朝子。炭鉱事業で成功し、大阪、福岡、東京へと文字通りの「東奔西走」だった。その行動力を支えた鉄道は、この当時どんな姿だっただろうか。
鉄道開通で石炭に注目
あさがきたは、今のところ鉄道や列車が登場しない。近年の作品では『ごちそうさん』『花子とアン』で明治村の列車や駅が登場した。NHKは「また同じ風景を使うと、さすがに使い回し感がある」と考えたのだろうか。
しかし、主人公のあさは、あるときは九州筑豊の炭鉱へ、姉の家族が暮らす和歌山へ、大学設立や要人に会うために東京へと忙しく動き回っている。交通手段は徒歩、馬、駕籠(かご)、汽船、鉄道と変わった。あさは陸上交通の変革を体験した人でもあった。セリフではときどき「汽車や汽船で楽に行ける」などという言葉も出てくる。また、「鉄道や自動車など機械の普及で、思いがけない理由で亡くなる人もいる」として、それが保険会社設立のきっかけにもなった。
それでは、あさのモデル、広岡浅子の生涯と鉄道の発達を重ねてみよう。参考文献はドラマの原案となった『小説 土佐堀川(古川智映子著)』と『別冊宝島2387 広岡浅子の生涯』そして、大同生命の特設サイト「広岡浅子の生涯」だ。
1873(明治5)年、新橋〜横浜間に日本初の鉄道が開業する。当時、浅子は24歳。加島屋(広岡家)の次男、信五郎と結婚して7年経ったころだ。加島屋は明治維新の混乱で幕府派の各藩への貸し付けが焦げ付いていた。両替商に未来はない。新たな商いを探す必要がある。
浅子は鉄道の建設中から石炭に興味を持っていた。夫の信五郎が寄り合いで「これからは石炭だ」と聞きつけてきたからだ。政府は蝦夷地(北海道)で炭鉱開発に取り組もうとしていた。しかし加島屋には新規事業に投資する資金がない。1876(明治9)年に長女・亀子の出産などもあり、10年以上経って、1886(明治19)年に筑豊炭田の潤野炭鉱を買収する。
このあたり、小説では炭鉱買収後に亀子を出産したとあるけれど、実際は亀子が8歳のころのようだ。経営を立て直す中、浅子は炭鉱の購入に自分の嫁入り道具のほとんどを売り払った。さらに炭鉱の購入に借金もした。
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