いま各社が動画配信ビジネスに夢中になるワケ:西田宗千佳のニュース深堀り(2/4 ページ)
いま、動画配信ビジネスが過熱している――。各企業が動画に乗り出すのはなぜか? キーワードは「スマートフォン」と「若者」だ。
「第一のメディア」の座が危うくなったテレビ
背景にあるのは、接触メディアが世代によって大きく変わってきており、若い層にとってはスマートフォン(もしくはPC)こそが第一の接触メディアになっている、ということだ。
以下のグラフは、博報堂DYメディアパートナーズが毎年5月に発表している「メディア定点調査」によるものだ。これは、東京地域において、各世代の男女が1週間のうちに、どのメディアにどれだけ接触しているのかを示したもの。
これを見れば一目瞭然である。10代・20代においては、スマートフォンが圧倒的に接触時間が長い。可処分時間の長さから、メディア全体への接触量が多いことも重要なのだが、何より、テレビの接触時間が50代・60代に比べてグっと短くなっている点に注目してほしい。社会人となる20代では可処分時間が減り、仕事を含めPCに接触する時間が増えるのだが、スマートフォンへの接触時間は減らず、むしろテレビへの接触時間が減っている。
もう一つ、テレビというメディアへの若年層の接触量低下を示すデータがある。次のグラフは、電子情報産業技術協会(JEITA)が公開している「民生用電子機器国内出荷統計」から、29型以下のテレビと37型以上のテレビに関して、出荷実績を抽出してみたものだ。
最大のピークは2011年の地デジ移行であり、その後テレビの売れ行きが落ちている……というのはご存じの通りなのだが、重要なのは、青の「29型以下」とオレンジの「37型以上」差だ。37型以上のテレビはいわゆる大型テレビであり、家庭のリビングに置かれるもので、29型以下は各部屋に置かれる小型のものと考えていい。テレビというとリビングにあるものを思い浮かべるが、実際の販売数量では、より安価で小型なものの方が多い。実際、「地デジ移行特需」期まではそうだった。
だが現在、大型テレビの販売数量は増えているが、小型のものは増えていない。4Kを中心に、リビングにある「メインのテレビ」は買い替えも含めた新しい需要がゆっくりと伸びてきているが、小型のテレビについては、販売数量が戻っていないのだ。
これはすなわち、「個室におけるテレビの需要」が戻っていないことを指す。2000年代までは「各部屋に一台」の割合で増えてきたテレビだが、地デジ移行とスマートフォンの普及が同時にやってきた結果、「スマホで見るコンテンツで十分だ」「お金がかかるなら買い換えなくてもいい」とみなされたのではないか。結果、若い世代のテレビへの接触時間が減り、ますますテレビに魅力を感じなくなっていく……。
これが、若者のテレビ離れの仕組みである。
そもそも、スマートフォンはエンターテイメントのための機器であり、同時にコミュニケーションのための機器でもある。1つの機器でそれらの用途をカバーできるのであれば、日常の中での接触時間はどんどん長くなる。接触時間の長いメディアの中にコンテンツビジネスと、それに付随する広告ビジネスが入っていこうとするのは、当然のことといえる。
2月にあるシンポジウムで同席した、BBCワールドワイド・アジア担当エクゼクティブバイスプレジデントのデビッド・ウィーランド氏は、筆者にこう話した。
「英国でも他の国でも、10代はPCやスマートフォンで映像を見るようになっている。私の子供もそうだ。このあと、彼らが今まで通り放送を見てくれるとは思えない」
BBCは番組のネット配信に積極的だが、「BBCの『B』がブロードキャストの意味ではなくなる日が来る」とコメントしている。スマートフォンがファーストメディアである世代がこのまま年齢を重ねていくならば、映像消費メディアとしての「放送」の価値も変化せざるを得ない。
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