羽田空港を便利にする「たった200メートル」の延長線計画:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/4 ページ)
国土交通大臣の諮問機関「交通政策審議会」が、2030年を見据えた東京圏の鉄道計画をまとめた。過去の「運輸政策審議会答申18号」をほぼ踏襲しているとはいえ、新しい計画も盛り込まれた。その中に、思わずニヤリとする項目を見つけた。
「羽田空港国内線ターミナル駅引上線の新設」は良案
新しい答申案で新規に盛り込まれた路線は3つ。項番4の「京急空港線羽田空港国内線ターミナル駅引上線の新設」、項番6の「都心部・臨海地域地下鉄構想の新設と常磐新線延伸の一体整備」、項番8の「都心部・品川地下鉄構想の新設」だ。
このうち、最も小規模な「京急空港線羽田空港国内線ターミナル駅引上線の新設」は、小規模ながら効果は大きい。京急空港線の増発が期待できる。なぜなら、複線区間終端駅のネックとなる「交差支障」が解消されるからだ。
交差支障とは、列車が分岐器などでほかの線路を通過するとき、他の線路上の列車を停めてしまう問題だ。複線区間の終端駅は、駅の手前に交差分岐器がある。この分岐器のおかげで、すべての到着列車がすべてのホームに入れるし、どのホームの列車も折り返して左側通行の線路に入れる。しかし、列車の到着順序によっては、到着する列車が分岐器を通過する間、出発列車が足止めされてしまう。
そこで、交差分岐器を到着ホームの後ろに設置し、到着した列車をいったん背後に引き上げて、改めて駅に戻して出発させる。このための線路が引上線である。駅の手前で起きた渋滞が、駅の停車時間と相殺できる。交差支障そのものは引上線部分で起きるけれど、交差支障を駅の後ろに移動させるだけで、列車の発着がスムーズになる。
引上線に必要な距離は、京急電鉄が運行する8両編成と分岐器に必要な距離。少し安全マージンを取ったとして、200メートル足らずである。わずかな距離だが効果は大きい。
時刻表を基に列車ダイヤを作ってみた。通勤ラッシュ時間帯にもかかわらず運行間隔がまばらだ。その理由の1つに交差支障がある。終点の羽田空港国内線ターミナル駅手前で列車同士がすれ違わないように調整している。
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