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新型パッソ/ブーンで見えたダイハツの実力池田直渡「週刊モータージャーナル」(6/6 ページ)

ダイハツの新型パッソ/ブーンに試乗して実感したのは、同社の高い見識と技術力だ。そしてもう1つは、ダイハツを完全子会社化したトヨタの戦略眼の確かさである。

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 そのほかの要素で言えば、ステアリングコラムをサポートするメンバーの角度を変えて、「曲げ」で支える形状から「圧縮」で支える形状に変えるなど軽量高剛性のための真面目な改善が随所に織り込まれていること。乗員の骨格をどう支えるかを意識したシートの設計や、乗員の頭のふらつきを解析するなど、人を中心とした設計を行うという意味でも、理想主義が貫かれている。

 まとめてみよう。パッソ/ブーンはアジア戦略カーのベースとして、微妙なところにある。それは旧型からキャリーオーバーされたペダルのオフセットがあまりにもひどいからだ。「気にならない人なら……」とは言えない。食育ならぬ車育的見地から考えたときに、これから初めてクルマに接する人々にこそ、最初に変なものには乗らせたくない。

フロントはベンチタイプを採用。セパレートならシートの取り付け向きを曲げることで、ペダルオフセットをもう少し減らすことができたかもしれない。よくある手法である
フロントはベンチタイプを採用。セパレートならシートの取り付け向きを曲げることで、ペダルオフセットをもう少し減らすことができたかもしれない。よくある手法である
価格帯を考えると質感は高い。ステアリング表皮の手触りなどただのプラスチックだった時代から考えると隔世の感がある
価格帯を考えると質感は高い。ステアリング表皮の手触りなどただのプラスチックだった時代から考えると隔世の感がある

 このパッソ/ブーンは、ダイハツの完全子会社化(関連記事)が視野にはいる時点ではもうクルマができ上がっていた。トヨタの「小型車をダイハツに任せる」という方針決定以前にできたクルマなのだ。だから完全子会社化以降の戦略とわずかだが齟齬(そご)がある。もし、という言葉が許されるなら、完全子会社化が初めにあれば、パッソ/ブーンはゼロベースで開発されたのではないか。

 しかし、そういう制約を受けながら、与えられたものをベースにダイハツが行った設計のほぼ全てに、人の健康と安全を念頭に置いた良心が感じられた。惜しむらくは素材である。

 トヨタグループがアジアの覇者になる気が本当にあるのであれば、ダイハツにゼロベースでクルマを設計させてみるべきではないか。そう言えるだけの結果は今回のパッソ/ブーンを通じて見えたと思う。ダイハツの技術と見識にはアジアの国民をより幸せにするだけのものがある。

 完全子会社化以降のフェーズは4月18日に始まったばかり。ひとまず6月に行われるダイハツの定時株主総会で株式交換が議決されてからだ。パッソ/ブーンをそのままマイヴィにするのか、マイヴィはマイヴィとして、ほかに主力車種を置くのか、そのすべてはまだ決まっていない。

筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)

 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。

 現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。

 →メールマガジン「モータージャーナル」


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