トヨタのダイハツ完全子会社化の狙い:池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/3 ページ)
先週金曜の夜、トヨタとダイハツによる緊急会見が開かれ、多くの報道関係者が詰めかけた。ダイハツを完全子会社化することでトヨタの世界戦略にどのような影響が及ぶのか。そのポイントは……。
先週金曜日の夕方、午後4時43分、トヨタ広報部から一通のメールが入った。「トヨタとダイハツ共同記者会見」とタイトルの入ったメールは、都内のホテルでトヨタ自動車の豊田章男社長とダイハツ工業の三井正則社長による合同記者会見の告知だった。メール配信から3時間を切ったタイミングでの記者会見である。
東京証券取引所の後場(午後の部)は15時で閉まる。まさにタイミングを見計らった通知だ。緊急記者会見にもかかわらず、会場となった日本橋蛎殻町のロイヤルパークホテルには多数のマスコミが詰めかけた。
内容の予想はついている。前週に既にトヨタがダイハツを完全子会社化するという噂が流れ、ダイハツ株はストップ高を付けていたからだ。
ダイハツの上場取り消し
定刻通り会場に現れた両社長から発表されたのは、大方の予想通り、ダイハツの完全子会社化だった。ダイハツは既に50年前からトヨタと提携関係にあり、1998年にはトヨタがダイハツの株式の過半を取得して、連結決算上の子会社としていた。今回の完全子会社化とは、トヨタ株1株に対してダイハツ株0.26の割合で株式交換を行い、ダイハツの全発行済み株式をトヨタが入手するというもの。
記者会見の行われた1月29日には既に両社の取締役会の議決を経ており、完全子会社化までのスケジュールも発表された。6月下旬にダイハツの定時株主総会で決議の上、7月26日にダイハツ株の取引所での売買を終了。翌27日をもってダイハツ株は上場を廃止する。ダイハツ株は上述の交換比率に応じて8月1日にトヨタ株と交換される。少なくとも資本の上ではダイハツはトヨタの一部になるわけだ。
多くの人が注目するのは、ダイハツ・ブランドの行方だ。2000年代に入ってから、自動車メーカーの身売りや合併では、ブランドをつぶして生産設備や人員といった中身だけを親会社に組み入れることはほとんど行われていない。むしろブランドという無形の価値と社風にこそ重要な価値があるという見方になっている。当然今回もこの流れに則り、ダイハツはトヨタと異質の価値を持つブランドとして今後も存続することになる。
新生トヨタグループの陣容
トヨタの新しいブランド・ラインアップは、プレミアムブランドのレクサス、先進国市場を中心とするトヨタ、新興国市場を中心とするダイハツ、商用車の日野というスキームになる。しかし、トヨタはこのところ提携の枠組みを広げており、スバル、マツダ、いすゞ、ヤマハとも提携関係にある。
スキーム内に収まらない4社との協業がどのような方向に進むかはまだよく分からないが、今回のダイハツ完全子会社化で近い将来に影響を受けるのはスバルだろう。現在、北米での売れ行きが絶好調のスバルだが、子細に見れば、実はスバルにあるのは水平対向エンジンとレガシィのシャシーのみである。インプレッサはレガシィ由来のシャシーであり、スバルのラインアップのほとんどがインプレッサのバリエーション展開でなされている。
つまり、スバルはC、Dセグメントのシャシーしか持っていない上に、低燃費エンジン開発が難しい水平対向で戦っていかなくてはならない。このエンジンとシャシーが通用するうちは良いが、やがて宿命的に燃費で大きな後れをとるのは間違いない。スバルが長期的に生き残っていくためには、トヨタがあまり得意としていない小型車でグループ内の存在感を高めていくしかなかったはずなのだ。しかし今回、その位置にはダイハツがすっぽりと収まってしまった。スバルにそれ以外に選択すべき道があるのかどうか。あまり楽観的には考えにくい状況だ。
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