トヨタのダイハツ完全子会社化の狙い:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/3 ページ)
先週金曜の夜、トヨタとダイハツによる緊急会見が開かれ、多くの報道関係者が詰めかけた。ダイハツを完全子会社化することでトヨタの世界戦略にどのような影響が及ぶのか。そのポイントは……。
ダイハツの開発技術とマーケット
さて、話をダイハツに戻そう。会見の中で豊田社長も説明していたが、トヨタはミドルクラス以上のクルマを得意としており、小型車で優位を築いてきたメーカーではない。一方でダイハツはご存じの通り、軽自動車に軸足を置くメーカーだ。小型車を低価格かつ高レベルに開発する能力において、トヨタはダイハツに敵わないのだ。
ちなみに会見で、豊田社長が注意深く話していたポイントは2点ある。まずはトヨタにも小型車作りのノウハウはあるという点だ。「トヨタは小型車がダメだ」と社長自らが言えば、従来トヨタの小型車を買ってくれたお客さんを憤慨させるし、これまでの社員の働きに対しても全否定になりかねない。その辺りに留意しつつ、ダイハツの小型車作りの高評価をしなくてはならないところが難しいのだろう。しかし、そこをうまく説明しないことには、完全子会社化の意味を伝えることができない。
もう1つはダイハツのプライドを踏みつけにしないことだ。実はダイハツは日本最古の歴史ある自動車メーカーである。今回の会見内容を乱暴に解釈すれば、「安グルマはダイハツに」という話に聞こえかねない。それは一面の事実ではあるが、トヨタの意図するニュアンスとは全然違うのだ。
トヨタにとって、ダイハツの小型車開発能力が魅力なのは本当だと思うが、喉から手が出るほど欲しいのは、ASEANでダイハツが固めた地歩である。
現在、世界の自動車メーカーの年間新車販売台数はおおざっぱに言って1億台に届こうとしている。世界最大のマーケットは中国の2300万台。それは14億人の人口を擁する国だから実現できる数字だ。現在の中国が経済的苦境にあるのは確かだが、一方で新たな中間層が次から次へと現れて内需を支え続けているのも事実である。
すごいのはこの中間層がどんなに経済的に討ち死にしてもいくらでも代わりがいるということだ。巨大マンションが無人の廃墟になっても大問題にならないのは、デベロッパーは既に建設中に売り抜けており、政策の失敗による貧乏くじはこうやって雲霞のごとく次から次へ現れる中間層が引いている。彼らが破産をしたとてまた新たな中間層がやって来て消費してくれる。これが中国経済の内需の底力になっている。こういう人が日本での爆買いの主役なのだ。つまり、中国経済は一部富裕層が浮かれるバブル期を通り過ぎ、非富裕層がクルマを買う段階に突入し始めたのだ。
そしてポスト中国として躍進が期待されているのはインドだ。インドは人口12億。現在の新車販売台数は300万台に過ぎないが、既にモータリゼーションの黎明(れいめい)期を迎えており、常識的に考える限り、向こう20年で現在の中国同様2000万台マーケットになるという予想は、十分妥当な線だ。
そしてASEANである。ASEAN最多の人口を誇るのはインドネシアで2億5000万人、次いでフィリピンとベトナムが1億人、タイが7000万人。ASEANのトータルでは6億人の総人口になり、現在の域内新車販売台数はインドと同じ300万台。日本の人口をざっと1億人として、新車は大体500万台売れる。6億人なら3000万台売れることになる。もちろん国民一人当たりGDPが日本と並ぶと予測するのは無理だとして、向こう20年のポテンシャルを3分の1に見積もっても、1000万台の積み増しだ。これに中国とインドの各2000万台を足せば、新興国市場全体での増加分が5000万台レベルに達すると考えるのは必ずしも夢物語ではなくなる。トヨタはこの局面展開をうまくやれば、2000万台という途方もない販売台数を実現できるかもしれないわけだ。
「いや、そのマーケットはパイの奪い合いになるので、そう都合良くはいかないだろう」。そういう意見もあるだろう。もちろん最終的にはフタを開けてみないことには分からない。ただし、中国、インド、ASEANという3つのマーケットでのそれぞれの覇者は現状、フォルクスワーゲン、スズキ、ダイハツの3社だ。ダイハツを傘下に併呑することで、トヨタは少なくともASEANマーケットでチェックメイトできる。
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