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JR北海道が断念した「ハイブリッド車体傾斜システム」に乗るまで死ねるか:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/5 ページ)
JR北海道は鉄道の未来を見据えたチャレンジャーだ。線路と道路を走れるDMVや、GPSを使った斬新な運行システムを研究していた。しかし安全対策への選択と集中によってどちらも頓挫。今度は最新技術の実用化試験車両を廃車するという。JR北海道も心配だが、共倒れになりそうな技術の行方も心配だ。
ハイブリッド車体傾斜システム
285系気動車が搭載したハイブリッド車体傾斜システムは、制御付き振り子方式と強制車体傾斜式の両方を搭載する。振り子方式では車体の傾きは6度が限界。そこに強制車体傾斜式を合わせて、さらに2度傾ける。合わせて8度の傾斜だ。振り子だけで8度傾けようとすれば、左右の揺れ幅が大きく乗り心地が悪い。強制車体傾斜式はエアサスペンションの上昇に限界があって、8度は不可能。
ハイブリッド車体傾斜システムは、左右移動と上下移動の組み合わせで乗り心地を維持したまま、曲線区間の物理的限界速度にもっと近づける。乗り心地基準の曲線区間の制限速度が時速90キロメートルだとすると、振り子式はプラス30キロメートルまで上げられる。強制車体傾斜式は少し低くてプラス25キロメートルだ。そしてハイブリッド方式はプラス50キロメートル。
つまり、時速90キロメートル制限のカーブを時速140キロメートルで通過できる。秋田新幹線や山形新幹線の在来線区間(ミニ新幹線)なみの速度を出せる。もちろん軌道の強化は必要だ。しかしミニ新幹線のように軌間を変更するような大工事は不要。函館〜札幌間だけではなく、札幌〜帯広〜釧路、札幌〜網走、札幌〜稚内など各方面をミニ新幹線化したも同然の効果を期待できた。
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