JR北海道が断念した「ハイブリッド車体傾斜システム」に乗るまで死ねるか:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/5 ページ)
JR北海道は鉄道の未来を見据えたチャレンジャーだ。線路と道路を走れるDMVや、GPSを使った斬新な運行システムを研究していた。しかし安全対策への選択と集中によってどちらも頓挫。今度は最新技術の実用化試験車両を廃車するという。JR北海道も心配だが、共倒れになりそうな技術の行方も心配だ。
世界の鉄道を革新する技術
JR北海道の285系気動車の消滅は、北海道の鉄道高速化をあきらめただけではない。日本の鉄道技術の進化を摘み取ってしまった。ハイブリッド車体傾斜システムはJR北海道と鉄道総合技術研究所と川崎重工業の共同開発だ。DMVを各地でデモンストレーションしたように、ハイブリッド車体傾斜システムを北海道以外の地域に転用したい。
ただし、傾斜角8度は気動車だからできたこと。電車の場合は架線との調整が難しい。気動車として導入するなら、JR西日本の山陰地区やJR四国あたりだろうか。どちらも振り子式の気動車特急を走らせている。JR東海の「ひだ」「南紀」ではどうか。次の新型車両置き換えで採用していただきたい。
さらに展望すれば、この方式は海外の鉄道高速化手段として輸出できる。世界は高速鉄道ブームで、日本、フランス、中国など各国の新幹線方式を売り込んでいる。ただし費用対効果を考えると、すべての国が必ずしも最高速度を求めているわけではない。新幹線のスピードには届かなくても、低予算で劇的なスピードアップを図れるなら歓迎する地域はある。
積み荷の荷崩れを防止するという意味では、高速貨物鉄道にも使える。これも海外では需要がありそうだ。JR北海道がノウハウを蓄積して売り込めば、起死回生のチャンスがあった。ハイブリッド車体傾斜システムは成就させたい。このままでは技術者たちも報われない。鉄道ファンとして、日本の鉄道技術の粋に乗らずに死ねるか。
関連記事
- 北海道新幹線、JR北海道のH5系電車が2本しか稼働しないワケ
北海道新幹線がらみのビジネスの話題をお伝えしたかったけれど、私の情報力不足のせいかネタが少ない。そこで、今回は鉄道ビジネスの慣例を1つ紹介しよう。鉄道業界で古くから行われている「物々交換」だ。鉄道会社同士で「ある取引」を精算するとき、資金を移動させない方法がある。 - 寝台特急「カシオペア」が復活、次は東北・北海道新幹線の高速化だ
東京と札幌を結ぶ寝台特急「カシオペア」が早くも復活する。2016年3月、北海道新幹線の開業を理由に廃止された列車が、なぜ北海道新幹線開業後に復活できたか。その背景を考察すると、北海道新幹線の弱点「東京〜新函館北斗間、4時間の壁」も克服できそうだ。 - 北海道新幹線に援軍が続々……JRグループの総力戦
北海道新幹線は所要時間や料金について、前評判が芳しくない。しかし開業を控えてJRグループと国土交通省が次々に活用施策を発表している。青春18きっぷ特例、貨物新幹線の開発計画だ。北海道新幹線に向けた総力戦は、全国規模の応用も期待できる。 - 手詰まり感のJR北海道、国営に戻す議論も必要ではないか?
北海道新幹線開業を控え、JR北海道は背水の陣で経営の立て直しに取り組んでいる。しかし同社の報道発表も地元紙のスクープも悲しい情報ばかり。現場の士気の低下が心配だ。皆が前向きに進むために、斬新な考え方が必要ではないか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.