世界で目の敵にされるイスラム教徒が、なぜロンドン市長になれたのか:世界を読み解くニュース・サロン(4/4 ページ)
ロンドンでイスラム教徒の市長が誕生した。市長に選ばれたのは、パキスタン移民2世のサディク・カーン。英国だけでなく欧州の主要都市を見渡しても、いまだかつてイスラム教徒が市長になったことはないのに、なぜ彼は選挙に勝つことができたのか。
人種・宗教よりも深刻な住宅事情
また今回の選挙では、ロンドン市民にとって人種・宗教よりも深刻な問題があった。ロンドンで最大の問題だと見られている住宅危機だ。カーンはそこでも、少数派として低所得者層の公団で育った経験から、説得力のある提案をして有権者の支持をつかんだ。
ロンドンの住宅不足は深刻で、それによって、住宅価格も2013年から40%ほど値上がりしている。賃貸ですら、価格が高騰して手頃な部屋を見つけるのは難しい。そこにきて2031年までにロンドンの人口は200万人増え、1000万人に達すると試算されている。
ロンドンでは現在、毎年2万3000戸の住宅が建設されているが、人口増のペースを見る限り、年間6万2000戸ほど建設しなければ将来的にも住民に十分な住まいを提供できない。だが場所の確保など根本的な問題も残されており、ロンドンの住宅計画は、ロンドンの公共政策において過去50年で最悪の失態とも言われている。
そこでカーンは新規住宅の建設を増やし、新規住宅の半分は平均的な家庭でも利用できるようにしたいと主張している。また、ロンドン市民を優先にして住宅を提供とするとも述べている。というのも、現在ロンドンでは、中東やアジアなど外国から投資物件として住宅が購入されるケースが多く、それが価格の上昇を後押ししているからだ。市長に就任した今、カーンはこうした問題にどう手腕を見せるのかが注目されている。
ちなみにカーンは2020年にロンドン市長の任期を終えたら、労働党の党首に名乗りを挙げると見られている。そうなればもしかすると、英国で欧米初のイスラム教首相が誕生する可能性もある。
サディク・カーンという政治家の名前は覚えておいたほうがよさそうだ。
筆者プロフィール:
山田敏弘
ノンフィクション作家・ジャーナリスト。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト研究員を経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)がある。
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