世界で目の敵にされるイスラム教徒が、なぜロンドン市長になれたのか:世界を読み解くニュース・サロン(3/4 ページ)
ロンドンでイスラム教徒の市長が誕生した。市長に選ばれたのは、パキスタン移民2世のサディク・カーン。英国だけでなく欧州の主要都市を見渡しても、いまだかつてイスラム教徒が市長になったことはないのに、なぜ彼は選挙に勝つことができたのか。
人種が入り混じるロンドン市民は「協調」を選ぶ
確かに、英国全体で見ると、イスラム教徒への警戒心は存在する。パリとブリュッセルのテロによる衝撃は言うまでもないが、テレサ・メイ英内務大臣が2016年1月に語ったところによれば、英国でも800人以上の若いイスラム系英国人がシリアとイラクでISに加わっており、そのうちの半分は英国に帰国しているという。国内で懸念が高まるのも無理はない。
ところがロンドンでは、保守党のこうした人種・宗教的な部分を煽(あお)る選挙キャンペーンが、反発を買った。そしてカーンは、明確に自身がイスラム過激派であることを否定し、穏健なイスラム教徒としてイスラム教信者のコミュニティ内部に働きかけることができるとも示唆した。
カーンは、市長に選ばれてすぐに英オブザーバー紙に寄稿し、ゴールドスミスとキャメロンが人種・宗教間の不信感を煽り、まるで米国のドナルド・トランプと同じような戦術を使っていると痛烈に批判している。米国ではトランプがこうした戦術で今のところ共和党員から支持を得ることに成功しているが、ロンドンではこの手の手法は通用しなかった。
ちなみにトランプは、イスラム教徒や中南米からの移民などに毒を吐いているが、それによって、共和党全体のイメージが悪くなっている。彼の「イスラム入国禁止」「メキシコとの国境に壁建設」「日本の核保有容認」といった発言は共和党の主張ではないし、大統領選の本戦で共和党VS. 民主党になった際には、共和党は厳しい戦いを強いられると見る向きもある。同じように、ロンドン市長選のゴールドスミスによるキャンペーンによって、英国の保守党のイメージが悪くなってしまったことは言うまでもない。さらにゴールドスミスは敗戦後、選挙戦での発言などについて党内からもさまざまな非難を受けている。
人種が入り混じるロンドンは、候補者の煽る「恐怖心」や「分断」よりも、「協調」を選んだ。そして皮肉なことに、カーンが、この時代にロンドンで生まれ育ったイスラム教徒だったことが奏功したとも言える。
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