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世界で目の敵にされるイスラム教徒が、なぜロンドン市長になれたのか世界を読み解くニュース・サロン(2/4 ページ)

ロンドンでイスラム教徒の市長が誕生した。市長に選ばれたのは、パキスタン移民2世のサディク・カーン。英国だけでなく欧州の主要都市を見渡しても、いまだかつてイスラム教徒が市長になったことはないのに、なぜ彼は選挙に勝つことができたのか。

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イスラム教徒であることを前面に押し出す

 ロンドンは英国内でも非常に多様化したユニークな都市だと言える。人口は860万人を超えるが、そのうち白人英国人は45%で、少数派といわれる黒人やアジア系などその他が55%を占める。つまりロンドンには、白人の英国人が半数以下しかいない。ちなみにロンドン市民の8人に1人がイスラム教徒で、ロンドン市民の35%ほどは海外生まれだ。市内では300もの言語が話されていると言われる。

 カーン新市長は少数派を中心に、最終的には57%の得票を得た。45歳のカーンは、野党・労働党に所属する下院議員だ。両親はパキスタン移民で、父親はバス運転手、母親は縫製師だった。ロンドンの低所得者向け公団に暮らし、8人兄弟の5番目として育った。大学卒業後は事務弁護士から、人権問題を扱う弁護士となった。24歳で結婚するまで兄弟2人と一緒のベッドルームで寝ていたほど、生活は楽なものではなかったという。

 今回の選挙でも、「バス運転手の息子」という育ちがキャッチフレーズのように語られた。カーンは必然的に低所得者や非白人の少数派の側に立った存在であると見られ、彼自身も格差の是正を訴えた。

 また自分がイスラム教徒であることを前面に押し出した。ただ選挙戦では、それが対抗馬にとって格好のネタになった。

 対抗馬だった与党・保守党のザック・ゴールドスミス候補は欧米を覆うイスラムフォビアの流れを利用し、カーンがイスラム過激派とつながりがあるかのような口撃を繰り返した。億万長者の白人家庭に育ったゴールドスミスは、英デイリーメール紙に寄稿して、「私たちは世界で最も偉大な都市を、テロリストを友人だと考える労働党に手渡してもいいのか」と書いた。ただ強引な主張のこの記事が、顰蹙(ひんしゅく)を買ったのは言うまでもない。

 さらにゴールドスミスを支持するデービッド・キャメロン首相も、カーンが過去にイスラム原理主義者の参加した集会に出席したことがある事実から、カーンがIS(いわゆる「イスラム国」)を支持しており「危険」だと指摘。またパキスタンとライバル関係にあるインドからの移民のインド系英国人も、カーンを警戒するような批判を行った。

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