列車の車内販売を終わらせてはいけない理由:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(6/6 ページ)
鳥取県の若桜鉄道で2016年5月から車内販売が始まった。山陰地方で唯一の車内販売だという。全国的に車内販売は縮小傾向にある中で、地方のローカル線やJR東日本の首都圏のグリーン車で車内販売を実施している。車内販売の廃止と開始、その違いは付帯サービスか付加価値か、という考え方の違いでもある。
レジャー産業としての車内販売にチャンス
廃れていく車内販売は「長距離客の空腹の不満を解消しよう」という運輸業の考え方である。しかし、新しい車内販売は「付加価値の提供」だ。観光列車の多くは乗車記念品を販売し、沿線の特産品を売る。その場で食べるものとは限らない。特産品という分野なら、高単価な商品もありだ。アクセサリー、衣類など、利益率の高い商品も売れる。
JR西日本もそこに気付いている。山陽新幹線では弁当など従来品のほかに、沿線由来の特選品を売る。「岡山ヒノキの定規」「新幹線柄のふきん」「新幹線柄のマスキングテープ」「うるおい肌水」「デニムトートバッグ」など、1000円以上の高付加価値商品ばかり。トートバッグはなんと4300円だ。この売り上げは好調らしい。
JR東日本は2004年から首都圏の普通列車のグリーン車に「グリーンアテンダント」を乗務させている。検札業務のほかに、飲み物や軽食、菓子などをカゴに入れて販売する。その中に車内販売オリジナルグッズとして、電車をデザインしたボールペンや玩具も売る。グリーン車に着座した人は飲食しやすい。土産物を渡す家族がいる。それを見越した付加価値戦略である。
長距離列車の付帯サービスではないから、必ずしも弁当など消費期限のある商品を売る必要はない。在庫リスクが低く、利益率の高い商品を見定めればいい。駅の売店にあるようなものは、車内で売れなくて当たり前。売れるものを売らないから赤字になる。
東海道新幹線のこだまは車内販売をしていないけれど、私が観察する範囲では、朝の東京行き上り、三島から静岡までの下りは通勤通学客が多い。しかし、弁当や土産のお菓子が売れるわけはない。では、ハンカチはどうだ。出掛けるときに忘れた人がきっといる。筆記用具はどうだ。女性向けには脂取り紙。男性にはデオドラント用品。何でも試したらいい。何しろそこはライバル店がない。そして、お客さまはズラリと並んで座っている。
サンライズ出雲、サンライズ瀬戸なら、男女問わず乗車記念品は売れそうだ。出雲大社由来、金刀比羅神社由来の旅行安全お守りとか、ロゴ入りのアメニティセット。長距離の車内に飽きた子ども向けの電車玩具、電車柄の靴下、パズルゲーム。騒いだときに口に放り込むアメ。空気枕やブランケット。資格が必要だけど国内旅行保険など金融商品、モバイルバッテリー。AmazonやiTunesなどの決済カードがあれば、車内でもスマホで買い物ができる。買い忘れた土産品を通販で手配できる。
早朝深夜の列車では絶対的に乗客が少ないから採算が合わない。そこは分かる。しかし、日中の、2時間以上も走行する列車において「車内販売の廃止」は失策だ。そこにお財布を持った人がいる限り、売れるモノを見極めれば売れる。国鉄が分割民営化して以降、JRに限らず、鉄道会社はスマートなビジネスばかりやりたがっているように見える。そんなすまし顔をしないで、もっと貪欲にモノを売りなさい。ビジネスではなく商売をやりなさい。
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