「札幌駅に北海道新幹線のホームを作れない」は本当か?:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/6 ページ)
JR北海道が「北海道新幹線の札幌駅は在来線に隣接できない」と言い出した。既定路線の撤回であり、乗り換えの利便性も低下する。札幌市と建設主体の鉄道建設・運輸施設整備支援機構が反発している。JR北海道の言い分「在来線の運行に支障がある」、これは本当だろうか。駅の線路配線図とダイヤから検証してみよう。
札幌駅西案・東案の意図は「在来線の本数確保」
2015年7月17日。JR北海道は定例社長会見で「新幹線札幌駅について、当初計画通り現駅、現駅西側、現駅東側、現駅の地下の4案を検討している」と表明した(関連リンク)。理由は「在来線1番・2番ホームを新幹線に転用すると、在来線の発着本数が100本ほど減るからという。現在、札幌駅は1日に約600本の列車が発着する。その6分の1の列車が消えるという。JR北海道にとって、札幌付近は最も乗客が多い区間だ。輸送力を低下させたくないという本音があるのだろう。
札幌市は認可案で再開発計画を進めるところだった。鉄道建設・運輸施設整備支援機構にとっても寝耳に水だ。当初の計画案をひっくり返すなど認められない。JR北海道は、4案を検討するとし「決定したわけではない」と説明した。しかし、この表明はJR北海道以外のすべての当事者から反発された。2015年秋から、JR北海道は現駅設置案の検証を始めた。
2016年4月27日。JR北海道は現駅案について3つの検討案を提示し、すべて不可能と説明した。北海道が検討した第1案は「1・2番ホームを新幹線に転用し、回送線として使っていた11番線にホームを新設する」、第2案は「1・2番ホームを新幹線に転用し、11番ホームを新設、さらに線路1本を追加し、12番ホームも設置」、第3案は「新幹線用の0番ホームを新設、1番ホームを新幹線に転用、さらに11番ホームを新設」だ。
第1案では93本の在来線列車に影響がある。第2案は駅の北側への拡張が必要であり、最大で75本の在来線列車に影響がある。第3案は在来線列車の影響は少ない。しかし、予定地に隣接して大丸百貨店があるため、用地が狭く安全性に問題がある。これがJR北海道の説明だ。費用対効果が少なく「安全性」という名の切り札を持ち出した。
これに対して、札幌市と鉄道建設・運輸施設整備支援機構は「ダイヤ調整の余地はある」と反発した(関連リンク)。引き続き現駅案の可能性を探り、今年9月末までに結論を出す予定だ。
JR北海道は強硬に現駅案を否定する。5月になって「東側案」を札幌市と鉄道建設・運輸施設整備支援機構に提案した(関連リンク)。その後もJR北海道は現駅案を措定し、東側案を固持する姿勢だ。北海道テレビ放送は5月23日、札幌市が独自に第3案の影響調査を実施し、4者協議に提出する方針だと伝えている(関連リンク)。
かなり長くなったけれど、ここまでが本論の前提となる知識である。
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