高齢化時代の福祉車両:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/5 ページ)
日本社会の今後ますますの高齢化は周知の事実だ。そのために自動車メーカーが行っている取り組みについて考えてみたい。
クルマにできること
クルマの側から考えれば、第一はパーソナルモビリティの充実だ。これはシニアカーやセグウェイのような移動クラフトを進化させることで、一人では歩行困難な高齢者にできる限り自力で移動してもらうためにはぜひとも必要だ。当然、安全性と操作の容易性、加えて、多くの高齢者が集まる施設での駐車を考えれば小型化が強く求められ、それと両立できる範囲での耐候性も必要になる。
この話をすると必ず出てくるのが、事故を起こす可能性の話だ。現状でも高速道路の逆走のような高齢者による問題が発生しているのは確かで、「安全はすべてに優先する」という考えであれば、そこに一理あるのも事実である。しかし安全というのは、どこまでいってもコストとの兼ね合いだ。コストは必ずしも金銭とは限らず時間や手間も含む。
例えば、鉄道でのテロのリスクをゼロにするために、朝のラッシュ時間にすべての駅で空港の搭乗口レベルのチェックをすることになれば、もはや社会システムが維持できない。心構えとしての「安全はすべてに優先する」は大事なことだが、現実の運用でそれを適用しようと思えば、あらゆる意味でのコストが跳ね上がってしまうのだ。
だから、安全は常に許容値との兼ね合いが大事になってくる。事故ゼロではなく、許容可能な事故率に押しとどめることで、公共の安全性と利便性を両立させるバランス技術こそが安全の概念である。高齢化社会が成り立つコストとバランスする範囲において、自助移動クラフトの確率は、安全とコストのバランスを含む多面的な教育と並行して進めていかなくてはならなだろう。
自助移動が難しくなった人に対しては、家族のサポートによる送迎が必要になってくる。かつての介護車両は、普通のクルマに大改造を施して成立させたものだったが、ここ数年、最初から介護車両として使用可能な設計がされているクルマも多い。
ホンダのN-BOX+はオプションパーツを装着するだけで無改造で車椅子用のスロープを使えるようになっているし、マツダのCX-3は、開発時に老若男女問わず着座時に負担のかからない座面の高さを研究し、その高さを600ミリメートルに設定した。リフトもスロープもないが、杖を使えば歩ける程度の状況であれば、こうしてシートの高さを最適化するだけでも乗降の負担は減る。
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