オリジンでちょい飲み なぜ「オリジン弁当」をやめるのか:長浜淳之介のトレンドアンテナ(4/4 ページ)
長年親しまれてきた「オリジン弁当」は、リブランディングによって、装いも新たに「キッチンオリジン」へ、看板もメニューも再構築されつつある。その理由とは?
中食と外食の融合で新たな顧客ニーズを取り込む
イートインの発想は、後から出てきた。元からオリジン弁当に設けられていたベンチは弁当ができ上がるまで待つためのスペースで、「食べて行ってもいいのか」と顧客に聞かれると丁重に断っていた。
しかし、飲食しながらコミュニケーションを深めたり、休憩する場があってもいいのじゃないかという考えから実際にイートインをつくってみると、小さい子供がいる母親が、購入した商品を食べていく姿がよく見られたという。
セルフ式のホットコーヒーが80円、アイスコーヒーが100円と、安価なコーヒーマシンも設置してあり、コンビニのイートインと同様に、ちょっと休んでいくにはお手軽なスペースになっている。充電用のコンセントも設置してあるので、スマホやタブレット、ノートPCを持ち歩く人にとっても、使い勝手が良い。このようにカフェのイメージで利用する人も取り込めるなら、いっそ外食まで踏み込んでみるとどうなるか。店内利用に限定したメニューとして、ラーメンを提供し始めている。
全ての店で出しているわけではないが、西新宿店、杉並堀ノ内店、京王多摩川店などの店舗で、500円のしょうゆラーメンなどを食べることができる。店によってはランチ、ディナーの時間帯はラーメン店と化すほどで、ワンコインでつくり立てのラーメンが食べられることが受けている。うどんを提供する店もある。
オリジン東秀は1966年、東京都・世田谷区千歳船橋で中華料理店「中華 東秀」をオープンしたのが創業である。つまりは外食がルーツで、今も同店は44店(2015年度)を有する、中華の有力チェーンの一角だ。ラーメンを提供できる素地は十分あり、弁当・総菜店と外食との融合も、同社にしてみれば2つの主力業態を合わせただけで、突飛な発想ではないのだろう。
ラーメンに興味があっても、ラーメン店には入りにくいと感じている女性は多い。また、東京、大阪のような大都会の近郊でも、周囲にレストランが少なく、ラーメン1杯食べられる店がない、空白地帯も案外あるものだ。この試みは商品次第で面白くなりそうだ。
さらにキッチンオリジンには、生ビールやハイボールを出す、ちょい飲みできる店も存在する。京王多摩川店では、総菜として売られている唐揚げ、串カツ、レバニラなどをおつまみに軽く1、2杯飲んでいく人を見かける。締めには、ラーメン、うどんがある。斉田部長によれば、「もっと気の利いたおつまみがないか、検討中」とのこと。
オリジン東秀は2006年に株式公開買付によりイオンの傘下に入っているが、イオンが注力してきたGMS(総合スーパー)が曲がり角に来ているのは確か。イオングループとしてもキッチンオリジンのような食に特化した、専門性の高い、地域に密着した小規模店への期待は大きい。
キッチンオリジンは女性を意識した店舗改革から、イートインを活用した外食との融合で、コンビニとはまた違った顧客ニーズを掘り起こしている。新たな食のインフラを構築するチェーンとして、さらなる進化を遂げる予感がする。
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