なぜ世界各地の都市で「夜の市長」が注目されているのか:世界を読み解くニュース・サロン(3/4 ページ)
世界各地の都市で、新しい役職の存在が注目されている。「ナイト・メイヤー(Night Mayor)」だ。直訳すると「夜の市長」になるわけだが、彼らはどのような仕事をしているのだろうか。
アムステルダムを24時間活発な街に
著者の取材に、ミランは夜の市長として1日の仕事ぶりを紹介してくれた。朝10時からオフィスに詰め、午前中は夜の営業ライセンスなどについて役所と協議を行う。午後は17時までイベントの打ち合わせやブログ執筆などを行い、メディア対応もこなす。その後は22時まで休み、夜中は街に出て、夜のアムステルダムで進むプロジェクトなどについてメディアなどに説明しているという。また週に一度は、国外の都市でナイト・メイヤーとして講演も行っている。
ナイト・メイヤーとして、ミランはこんな取り組みを始めた。アムステルダムの夜間に騒がしくなりがちな地域で、注意喚起だけでなくガイドも行うパトロール隊を週末は朝まで配置している。また最近までアムステルダムでは午前4時にクラブを閉店しなければならない決まりがあったが、ミランは過去の経験から、午前4時に店を追い出されて街頭に溢れた人たちは急に静かになることはできないために、夜中に騒音やトラブルを起こすと分かっていた。そこでいくつかのクラブに、朝7時までの営業を許す代わりに、昼間に近隣の児童が遊び場としてクラブを利用できるよう施設の一部を開放させることにした。そうすることで近隣住民に存在の意義を見いだしてもらい、クラブ側も騒がしい客を夜中に追い出さなくてよくなった。
ミランの目標は、アムステルダムを本当の意味で24時間活発な街にすることだ。学生のために夜に図書館を使えるようにしたり、夜中に仕事環境を提供したり、24時間のレストランを増やすといったことにも取り組んでいる。ちなみにオランダでは、21時30分以降は、まともな食事ができるレストランはないという。
そして、こうしたミランの仕事ぶりが評価され、ナイト・メイヤーという役職は欧州を中心に広がりを見せている。オランダでは今、北東部フローニンゲンや東部ナイメーヘンを含む15の自治体が、ナイト・メイヤーとそれに近い役職を置いている。またフランスの首都パリや南部トゥールーズ、スイスのチューリッヒにはすでにナイト・メイヤーが存在している。
また現在、ドイツの首都ベルリンがナイト・メイヤーを作る予定だと報じられている。さらに、5月にロンドン市長に就任したサディク・カーンも就任後すぐに、ロンドンにナイト・メイヤーを任命すると発表している。ちなみにロンドンでは、ナイト・メイヤーの代わりに、「Night Tsar(夜部門の権力者)」という名前を付けるという。実はロンドンについては、ボリス・ジョンソン前市長が退任前にミランと会談して、ナイト・メイヤー設置について話し合いをしていた。
オーストラリアのシドニーでは、随一の繁華街であるキングスクロスで2013〜2014年にかけて夜中に起きた酒絡みの2件の暴行殺人事件のために、2014年からクラブは午前1時30分以降に客を入場させてはいけなくなり、午前3時にはアルコールの提供を終了しなければいけなくなった。それによって客足が遠のいたことで、40以上のクラブなどが営業できなくなっているという。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
世界が販売禁止に乗り出す、“つぶつぶ入り洗顔料”の何が危険なのか
スクラブ製品が、世界的に注目されているのをご存じだろうか。私たちが何気なく使っているスクラブ洗顔料や歯磨き粉などの一部には、いわゆる「マイクロビーズ」と呼ばれるプラスチックの粒子が使われている。その粒子が……。
世界から「児童ポルノ帝国」と呼ばれるニッポン
衆議院で可決した「児童買春・ポルノ禁止法」改正案。日本では大きく報じられていないように見えるが、海外では大きな話題になっている。規制が強化された格好だが、海外メディアの反応は厳しい。その内容とは……?
中国政府がいま最も恐れているのは、ネット上の「くまのプーさん」
中国共産党がネット上の検閲に力を入れている。いわゆる「サイバーポリス」と呼ばれる工作員が反政府的な発言などをチェックしているが、2015年に最も削除された発言は……。
なぜ「楽天」が世界中で叩かれているのか?
英語の社内公用語化など、グローバル企業への成長を目指して動き出した楽天。だが、本当に必要なのは「国際企業ごっこ」ではない。国際社会に対する社会的な貢献が求められる。
「最恐の殺人地域」を救うことができるのか 武器は日本の意外な“文化”
「中南米は危険」といった話を聞いたことがあると思うが、私たちが想像している以上に“危険”であるようだ。「世界で最も暴力的な都市2015年」を見ると、上位に中南米の都市がランクイン。こうした状況に対して、日本のある文化が期待されている。それは……。
フランスで「食品廃棄禁止法」が成立、日本でも導入すべき意外な理由
フランスで「賞味期限切れ食品」の廃棄を禁止する法律が成立した。世界で類を見ない画期的な法律であると世界各地のメディアで取り上げられ話題になっている。課題もたくさんあるが、フランスのこの取り組みは日本でも参考になるのではないだろうか。
