「世界最長鉄道トンネル」も開通 憲法でトラック制限するスイスに学ぶ:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/7 ページ)
私は時々「我が国は物流に関して信念を持ち、思い切った施策を実施すべきだ」と主張している。今回は、国土環境を守るという信念の下で、憲法でトラック輸送増加を禁じたスイスを参考に「信念」や「思い切った施策」について考える。
憲法を守るために作られたトンネル
スイス連邦政府は憲法84条を順守するため、10年間でアルプス通過交通を鉄道に移行する計画を立てた。実現するまでは例外法によって運用してきた。しかし20年以上経過した現在も、スイスを通過するトラックのアルプス越えは鉄道に完全移行していない。鉄道側の対応が遅れて、トラックを運びきれないからだ。
ゴッタルドトンネルには道路トンネルもある。片側1車線で全長約17キロメートル。1980年の開通だ。2001年にトラック同士の衝突火災事故で2カ月間も不通になった。このトンネルが不通になると、道路交通は大幅な迂回を強いられる。また、老朽化のために修復工事が必要で、長期間の通行止めが行われる。時速80キロメートル制限があり、渋滞も深刻だ。そこで「第2ゴッタルド道路トンネル」の計画がある。しかし、この計画は憲法84条3項に照らして違憲か否かで争われている。
鉄道のゴッタルド基底トンネルは当初より約9年遅れて開通し、ようやく運用の見通しとなった。貨物列車は1日180本から260本に増やし、1本あたりの輸送量は最大2000トンから4000トンに引き上げられた。輸送総量としては約3倍になる。これで道路から鉄道へトラックを移せる。
ゴッタルド基底トンネルと鉄道貨物は、アルプス通過交通規制にとって、ますます重要になった。スイスは自国の憲法を守るために、1兆4000億円と17年の歳月をかけて、ゴッタルド基底トンネルを開通させたのである。
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