「世界最長鉄道トンネル」も開通 憲法でトラック制限するスイスに学ぶ:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/7 ページ)
私は時々「我が国は物流に関して信念を持ち、思い切った施策を実施すべきだ」と主張している。今回は、国土環境を守るという信念の下で、憲法でトラック輸送増加を禁じたスイスを参考に「信念」や「思い切った施策」について考える。
欧州のトラック制限とスイスの課税
スイスのトラック規制は1994年のAlpen-Initiative以前から存在した。トラックは日曜日と平日夜間(22時〜5時)の通行を禁止している。例外としてミルクの配達と集荷が許可されているところが微笑ましいところだ。スイスではトラックに対し、高速道路だけではなく、一般幹線道路も通行料金を徴収している。3.5トン以上のトラックは走行距離、重量、排気ガスの値が大きいほど道路通行料金が高くなる。
スイスはEUに加盟していないため、独自のルールを次々に設定できる。1992年にトラック1台の総重量は28トンに規制された。これはEUとの交渉の結果、2001年から40トンに緩和され、トン数に応じた通行税が設定された。高速道路ではトラックだけではなく、バスも追い越し車線に入れない。元々スイスでは時速80キロメートル以上の速度を出せない車両は高速道路の追い越し車線の走行が禁止されていた。その最低速度が2016年1月1日から時速100キロメートルに引き上げられた。
トラックを鉄道に乗せる場合も輸送料はかかる。しかし、道路通行税より鉄道に乗せたほうが安く設定されている。スイスの考え方は明確だ。「トラックは列車に乗りなさい」なのだ。鉄道によるトラック輸送は「ローラ(ローリンクハイウェイ)」と呼ばれており、料金は日中が1台480フラン(約5万2000円)、夜間は720フラン(約7万8000円)だった。ただしこれは10年以上前のデータを拾ったので(関連リンク)、現在は値上がりしているかもしれない。ゴッタルド基底トンネルの建設費は122億スイスフラン(約1兆4000億円)もかかっているし、到達時間短縮の効用もあるから、料金は上がると思われる。
しかし、スイスの方針はトラックから鉄道への移行である。そのために鉄道利用料金は道路利用料金よりも低くする必要がある。スイスの鉄道は実質的に赤字路線が多く、連邦や各州から補助を受けている。ただし鉄道のトラック輸送料金に関しては、トラック全体から徴収する通行料金を財源として案分されているという。鉄道輸送料金を安くするためなら、道路通行料金を上げてしまおう、その収益で鉄道貨物輸送を支えよう。それがスイスの考え方だ。
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