「世界最長鉄道トンネル」も開通 憲法でトラック制限するスイスに学ぶ:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/7 ページ)
私は時々「我が国は物流に関して信念を持ち、思い切った施策を実施すべきだ」と主張している。今回は、国土環境を守るという信念の下で、憲法でトラック輸送増加を禁じたスイスを参考に「信念」や「思い切った施策」について考える。
労働環境維持の厳格な方針
スイスだけではなく、EU全体の労働者保護の考え方も鉄道への移行を促す要素だ。ドイツ、フランスなどEU加盟5カ国では3.5トン以上のトラック運転者は、運転時間を1日9時間と定められている。ただし週2回まで10時間業務可能、2週間で90時間までという制限がある。連続運転時間は4時間30分まで、次に運転するまで45分の休憩が必要だ。また、1日のうち11時間の連続休憩時間が原則。ただし週3日まで9時間休憩でも良いという。(関連リンク)。
この制限は日本のガイドラインとほぼ同じ。しかし日本では運用に関して放置気味で、事故があった場合などに実態調査が行われたり、抜き打ちで検査が行われる程度だ。EUは罰則規定が厳格で、取り締まりの頻度も高い。交通法令違反や事故の場合は直ちにトラックの記録装置が調べられる。労働基準に違反があった場合は、運転者と雇用者の両方に最低でも30万円の罰金が科される。運転者の就業時間データとトラックの運行記録はすべて警察などに提出が義務付けられ、一定期間保管されている。記録装置が取り付けられていないトラックを運行した場合は懲役を科す国もある。交通法規の順守と労働条件の管理が常にリンクしている。
ローリングハイウェイでトラックを乗せている間、ドライバーは客車に滞在する。その滞在時間はドライバーの連続休憩時間にカウントされる。だから、ローリングハイウェイを使えば、労働者の休憩時間を確保しつつ、より遠くへ、より早くトラック輸送が可能になる。だからドライバーだけではなく、運送会社にとっても鉄道を活用したほうがトク、なおかつ、従わなければ罰則が待つ、という仕組みになっている。
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