「世界最長鉄道トンネル」も開通 憲法でトラック制限するスイスに学ぶ:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(7/7 ページ)
私は時々「我が国は物流に関して信念を持ち、思い切った施策を実施すべきだ」と主張している。今回は、国土環境を守るという信念の下で、憲法でトラック輸送増加を禁じたスイスを参考に「信念」や「思い切った施策」について考える。
日本もスイスと同じにしろとは言わないが……
海に囲まれた日本は、他国間を結ぶトラックの通過はない。排気ガスについては厳しい車検制度でチェックしている。だから、スイスほど環境に対する意識は深刻ではない。それでも、排気ガスの少ない社会、環境保全は真剣に取り組むべき課題である。
日本の物流の大きな課題はドライバー不足である。EUは東欧諸国や移民などの労働力があるから深刻ではない。ドライバー不足は日本ならでの問題だ。少子高齢化や、事故多発の対策として設定された中型運転免許制度も影響している。労務管理の不徹底による重大事故も目立つ。輸入に頼る燃料価格の上下によって、運送会社の経営も左右される。
こうした状況を打破するために、日本が取るべき方策がある。大型長距離トラック輸送の抑制と鉄道貨物輸送の促進だ。環境への配慮とトラックドライバーの確保という信念の下で、思い切った施策に取り組むべきだ。
スイスのように日曜日と平日夜間の通行を禁止する。大都市圏に重量と排気量による通行税を導入する。これは地方自治体レベルでも検討に値する。スイス流の考え方では、例えば、静岡県が「東京〜名古屋間のトラック輸送の排気ガスだけを受け取る」なんて不条理である。他県ナンバーのトラックからは、汚された環境に対する対価を受け取るべきだ。
極論ではあるけれど、3.5トン以上のトラックについて、「ナンバー登録した都道府県から2つ以上の県境を越えてはいけない」と決めたらどうだろう。東京で登録したトラックは隣接県までを営業範囲とする。川崎港と成田空港を結べるけれど、名古屋、仙台などへは行けない。県境を2つ超える貨物輸送は鉄道や船に移行せざるを得ない。東京からの距離を稼ぐなら、神奈川で登録すれば静岡まで行ける。静岡で登録すれば、名古屋と横浜、川崎の工業地帯をカバーできる。そんな抜け道もできるけれど、もしかしたら運輸業の地方移転を促し、地方創生に寄与できそうだ。
長距離輸送を鉄道と船舶に移行し、トラックを近距離、中距離に特化する。問題は、トラックから荷物を引き受ける鉄道側の容量が不足していることだ。5年、10年という目標を設定し、設備投資していくしかない。実現すれば自然環境とトラックドライバーの労働環境を改善し、疲労が原因の事故も減らせる。これが日本の物流のグランドデザインではないか。
「信念を持って思い切った施策を行う」とは、こういうことだ。
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