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知られざる、金沢工業大学の巧みなマーケティング戦略(3/3 ページ)

金沢工業大学はマーケティング戦略が巧みである。少子化により大学淘汰が加速する時代、大学もマーケティング戦略の巧緻によって勝ち残りが決まる。

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PEST分析で考えた20年後の世界

 95年、KITが打ち出したのは「学生主役の大学」である。学生自ら学ぶ教育を実践することで『社会が求める』「自ら行動する技術者」の育成を目指す。そのために、さまざまな環境整備に尽力してきた。

 例えば、365日24時間オープンの自習室であり、数理工教育研究センターである。いつでも大学で学べる自習室を用意し、教育センターでは授業で分からなかった点を先生に教えてもらうことができる。センターには、学生に対応するために、教員が数十人チューターとして待機している。

 理系大学であるから、数学、物理、化学の基礎を徹底する。KITは偏差値評価で見れば、50をやや超えるレベルだが、実はこのクラスの理系の学生が、もっとも伸びしろがある。そこに丁寧な数理教育を施すことで、学生たちは「分かる」歓びを味わう。

 さらに、工学系大学ならではのシステムとして「夢考房」がある。これは講義で学んだ知識や培った技術を使って、実際に「ものづくり」を実現できる仕組みだ。ロボコン参加をはじめとして、学生たちが立ち上げるさまざまなプロジェクトには大学からの資金援助がつく。机上の学問だけではなく、学んだ成果を実際に活用する力こそは、エンジニアとして企業が何より求める力である。

 まさに社会の要請に応える教育を行った結果が、高い就職率となって表れている。KITは、リセマム発表の就職率ランキング2015において、卒業生が1000人以上の大学でベスト1、その就職率は96.1%である。

大学が提供する価値は何か

 コトラー先生によれば、ビジネスとは、価値と対価の交換である。では、大学が提供する価値とはなんだろうか。対価を支払うのは、学生の保護者である。保護者、ならびに学生が求める価値は「将来の可能性を高めること」だろう。

 もちろん、就職だけが可能性ではない。大学卒業生なら、研究者の道もある。けれども、KITは、教育の質を高めて、社会に求められる人材を育てることに絞り込んだ。そのために教員の意識改革にも取り組んだ。

 多くの私立中堅大学では、教員の多くが国立大学出身者で占められ、彼らは偏差値50程度の学生に対して、自分たちが受けてきた教育を押し付けようとする。当然、そこには齟齬(そご)が起こる。こうしたギャップを埋めるべく、教員の意識改革を徹底し、さらには企業の研究者を多く教員として招く。

 すべては、明確に定められた価値を提供するための取り組み、すなわちマーケティングの原則にのっとった活動である。KITの成功事例は、マーケティングの生きたお手本であり、他の大学にも活用できるはずだ。(竹林篤実)

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