中川政七商店が考える、日本の工芸が100年先も生き残る道とは?:ポーター賞企業に学ぶ、ライバルに差をつける競争戦略(4/5 ページ)
全国各地の工芸品を扱う雑貨屋「中川政七商店」が人気だ。創業300年の同社がユニークなのは、メーカーとしてだけでなく、小売・流通、そして他の工芸メーカーのコンサルティングにまで事業領域を広げて成功している点である。取り組みを中川淳社長が語った。
インバウンド対応に力を入れない
大薗: オンライン販売についてはどうお考えですか? 工芸品というのは手触りや微妙な色合いなどが大事だと思いますが、会社のブランドが立ってくるとオンラインでも売れるものなのでしょうか?
中川: 僕は、オンライン販売はずっと否定派で、「商品を触らずによく買うな」と思っていました。ただ実際には伸びていて客単価も高く、現在は売り上げ全体の6〜7%に当たります。ひとまず10%を目指しています。ただし、店舗があってこそ成立しているものだと思っています。
大薗: インバウンド対応についてはいかがでしょうか?
中川: 立地によっては一定の影響が出ています。ただし、基本的にインバウンド対応はするなという指示をしています。
大薗: それはなぜですか?
中川: インバウンドは瞬間的な“甘い汁”で、いつこの勢いがなくなるか分からないからです。ですから、東京五輪に向けて何かを仕込んでいるわけではないし、それほど関心はありません。
大薗: 中川政七商店の店舗に行けば日本の工芸品が買えると知れば、訪日外国人が大勢押し寄せそうな気はしますが。
中川: もちろん外国人の方々を拒否しているわけではないし、結果的に店舗にいらして買ってもらえるのは嬉しいです。けれども、インバウンドありきということはないです。メーカーの立場として思うのは、一過性のブームでどかんと売れてしまうのが一番困ります。
大薗: ブームはどの会社も苦労すると聞きます。けれども、意図せず勝手にブームになることも多いですからね。例えば、中川政七商店のコンサルティングによって成功したマルヒロが販売する波佐見焼の陶磁器ブランドも一気に売れたのでは?
中川: はい、確かに急に売れましたけど、それから5年以上も売り上げを落とさずに続いているので、もはやブームとは思っていません。
大薗: 仮にブームが来た場合、増産対応するよりは、ある程度は品切れ状態でも仕方ないという考えでしょうか?
中川: ある程度の増産はしますが、ムチャな投資はしません。ただ、長い目で見て、増産に向けた投資をしていかないと、多くの工芸メーカーは事業承継できるレベルまで達しません。今ちょっと食べられるようになったというのでは駄目なのです。
高齢化が進み、工芸メーカーでの後継者問題が叫ばれていますが、実は成り手がいないのではなく、そもそも自分たちが食べるのがやっとなので、雇いたくても雇えない状態なのです。別に高い給料でなくても。工芸をやりたいという若者は結構いるのです。継続的に収益を上げられる経営をすれば、この問題は解決するはずです。
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