ビル・ゲイツや世界銀行も注目する衛星利用ベンチャーとは?:宇宙ビジネスの新潮流(2/2 ページ)
今、衛星利用ベンチャーが数千万ドル規模の投資を受けるケースが増えている。そこにはビル・ゲイツ氏や世界銀行などが注目する新技術があるからだ。
ビル・ゲイツやトヨタが注目する衛星通信アンテナ
他方、通信衛星分野では、以前紹介したような米OneWebなどに代表される衛星インターネット網の構築プロジェクトが注目を集めている。例えば、地上側の受信アンテナ技術だ。
衛星受信アンテナと言うと、家庭に設置された小型のパラボラアンテナをイメージすると思うが、今年1月の「デトロイトモーターショー」では、トヨタ自動車が平面型の受信アンテナを搭載した燃料電池車「MIRAI」を発表した。この革新的な受信アンテナを開発したのが、ワシントン州レッドモンドに本社を構える米Kymetaだ。
Kymetaは発明家支援企業の米Intellectual Ventures(世界中の発明家と提携しイノベーションが必要な領域を特定して、発明家によるアイデア創出と特許取得を支援。その特許をライセンスする企業)から2012年にスピンオフした企業だ。スピンオフ時にビル・ゲイツ氏などから1200万ドルの資金調達を行っており、2014年には2000万ドル、2016年には6000万ドルと、年々その額を増やしている。
航空機、自動車、船など移動するプラットフォーム
同社のコア技術は、創業者であるネイサン・クンツ氏のデューク大学大学院時代の研究成果が基となる、メタマテリアル表面アンテナ技術だ。液晶技術とソフトウェアを用いることで、パラボラ形状のアンテナを使わずに、衛星を補足できる独自技術を有しており、アンテナを平面化や小型化できる。特に航空機、自動車、船などへの適用が期待されている。
同社はこれまでに、業界向けのアプリケーション開発のための提携を多数行ってきた。航空機分野においては、2013年に衛星通信大手の米Inmarsat、2015年には米Honeywellと提携。Inmarsatの通信回線とKymetaのアンテナを使い、Honeywellとの連携でブロードバンドサービスを実現することを目指している。また2016年には航空機内Wi-Fi大手のPanasonic Avionicsとも提携している。
自動車分野では、トヨタ自動車とは共同研究開発だけでなく、未来創成ファンドから約500万ドルの出資も受けている。また、衛星通信大手の米Intelsatとの間でも提携を行っており、Intelsatが提供するHTS(High Throughput Satellite)技術とKymetaのアンテナ技術を使うことで、コネクティッドカーへの通信インフラ構築を狙う。既に8000マイルの実証実験を行っている。
衛星利用技術への投資がますます過熱することは間違いない。
著者プロフィール
石田 真康(MASAYASU ISHIDA)
A.T. カーニー株式会社 プリンシパル
ハイテク・IT業界、自動車業界などを中心に、10年超のコンサルティング経験。東京大学工学部卒。内閣府 宇宙政策委員会 宇宙民生利用部会 委員。民間宇宙ビジネスカンファレンス「SPACETIDE2015」企画委員会代表。日本発の民間月面無人探査を目指すチーム「HAKUTO(ハクト)」のプロボノメンバー。主要メディアへの執筆のほか、講演・セミナー多数。
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