伝説のマイケル・ジョーダンは、なぜ長年の「沈黙」を破ったのか:世界を読み解くニュース・サロン(1/4 ページ)
米国で人種をめぐる事件が続いている。黒人と警察官の間には「一触即発」と言っていいほどの緊張感が漂っているが、そうした状況の中でマイケル・ジョーダンが立ち上がった。ジョーダンはこれまで社会的な発言を控えてきたのに、なぜ声を発するようになったのか。
世界を読み解くニュース・サロン:
今知るべき国際情勢ニュースをピックアップし、少し斜めから分かりやすく解説。国際情勢などというと堅苦しく遠い世界の出来事という印象があるが、ますますグローバル化する世界では、外交から政治、スポーツやエンタメまでが複雑に絡み合い、日本をも巻き込んだ世界秩序を形成している。
欧州ではかつて知的な社交場を“サロン”と呼んだが、これを読めば国際ニュースを読み解くためのさまざまな側面が見えて来るサロン的なコラムを目指す。
米国で人種をめぐる事件が相次いでいる。
例えば、2016年7月だけを見てもその深刻さは分かる。7月5日、ルイジアナ州バトンルージュの駐車場で拘束された黒人男性が白人警官に射殺される事件が起き、翌6日にもミネソタ州セントポールでクルマを運転していた黒人男性が警官に止められ、運転席で射殺された。両ケースとも事件の様子が動画に収められた。
動画がすぐにSNSやテレビで全米に拡散されると、警官による横暴または人種差別だとして、全米各地でデモが発生。そんな中、7日にテキサス州ダラスで行われていたデモで、元兵士の黒人男性が警官5人をライフルで殺害。さらに17日には、ルイジアナ州バトンルージュでも黒人男性が警官を銃撃し、3人を殺害する事件が起きた。
今では各地で「Black Lives Matter(黒人の命も大事)」という運動が生まれ、人種問題に発展している。また同様の事件や騒動が起きる可能性もあり、少なくとも黒人と警官の間では一触即発と言ってもいい緊張感が漂っている。
そんな米国の状況に一石を投じようと、これまで政治的・社会的な問題に対する発言の一切を避けてきた超大物アスリートが声を上げた。そのアスリートとは、バスケットボール界で一時代を築き、引退後からいまだにその名前がブランドとして世界中で知られる黒人のマイケル・ジョーダンである。
7月25日、ジョーダンは米スポーツ専門テレビ局ESPNの『The Undefeated』というWebサイトで声明を発表した(参照リンク)。1984年にプロのバスケットボール選手になってから、ジョーダンが人種問題などについて明確にコメントしたのは初めてのことだという。
「もうこれ以上、沈黙を続けることはできない」と題された声明でジョーダンは、警官による相次ぐ黒人殺害のケース、またその反発による警官襲撃事件が頻発していることに懸念を示した。長い沈黙を破った声明にはこう記されている。
「誇りある米国人として、愚かな暴力行為によって自分の父親を殺害された遺族そして子どもをもつ父親として、また黒人として、私は治安当局の手による黒人たちの死に深く心を痛め、警官を狙った臆病で不愉快な殺人行為に怒りを覚えている」
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