伝説のマイケル・ジョーダンは、なぜ長年の「沈黙」を破ったのか:世界を読み解くニュース・サロン(4/4 ページ)
米国で人種をめぐる事件が続いている。黒人と警察官の間には「一触即発」と言っていいほどの緊張感が漂っているが、そうした状況の中でマイケル・ジョーダンが立ち上がった。ジョーダンはこれまで社会的な発言を控えてきたのに、なぜ声を発するようになったのか。
アリとジョーダンの最大の違い
53歳のジョーダンは現在、ノースカロライナ州のバスケットボールチーム、シャーロット・ホーネッツの大株主である。また「ジョーダン」ブランドや、飲料水メーカーや衣料品メーカーなどとのパートナーシップによって、年間1億ドルを手にしている。それ以外にも、7つのレストランと自動車販売店を経営している。2016年でジョーダンの資産は11億4000万ドルで、富豪番付では、今世界で1577番目に金持ちである。
引退後もビジネスマンとして成功しているジョーダンだが、超大物のスーパースターであるにもかかわらず、なぜか「カリスマ性」が乏しいように感じる。例えば、2016年6月に死去した元ボクサーのモハメド・アリと比べると、残念ながら、社会的な影響力やカリスマ性という意味では及ばない。
そういう理由もあってか、今回の声明にも、メディアでは「単なるPRに過ぎない」「稼ぎが減ってしまうかもしれないね」といった皮肉が聞かれるくらいだ。
アリとジョーダンの最大の違いは、社会問題についての発言力とメッセージ力ではないだろうか。例えば、アリはかつて黒人差別に声を上げ、ベトナム戦争での徴兵も拒否して、「ベトコンには何の恨みもない。オレのことを黒人野郎なんて呼ぶベトナム人はいないしね」「(アリの出身地である米南部ケンタッキー州の)ルイビルではいわゆるニグロ(黒人)が犬のように扱われている」などといった魂のこもった発言を残した。そして米国史に名を残す伝説的なアスリートとなった。
だが本当の意味で、ジョーダンがアリのようなレベルの伝説的なアスリートになるには、今後も社会に力強いメッセージを発信して人々の心に触れる必要がある。もちろんアリと比べるには時代が違うという意見もあるかもしれないが、今回のジョーダンのコメントと注目度を見れば、そのポテンシャルは十分にある。
長い沈黙を破ったジョーダンが本当のカリスマになる日は来るか。
筆者プロフィール:
山田敏弘
ノンフィクション作家・ジャーナリスト。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト研究員を経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)がある。
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