伝説のマイケル・ジョーダンは、なぜ長年の「沈黙」を破ったのか:世界を読み解くニュース・サロン(3/4 ページ)
米国で人種をめぐる事件が続いている。黒人と警察官の間には「一触即発」と言っていいほどの緊張感が漂っているが、そうした状況の中でマイケル・ジョーダンが立ち上がった。ジョーダンはこれまで社会的な発言を控えてきたのに、なぜ声を発するようになったのか。
ジョーダンが社会的問題の発言を控えてきた理由
ジョーダンは最後にこう述べている。「私たちは米国人として団結でき、また平和的な対話と教育を通して建設的な変化を達成できるという希望をもって、私は今回発言することに決めた。それを後押しする目的で、私は次の2つの団体に100万ドルずつ寄付する。国際警察署長協会が新たに設立した地域警察関連研究所と、全米黒人地位向上協会の法的擁護基金だ」
とにかく現在の状況に、いてもたってもいられなくなったということらしい。そしてついに、声を上げたのである。
そもそもなぜ、ジョーダンはこれまで何十年も、政治的・社会的な問題について個人の発言を控えてきたのか。その理由は諸説あるが、「ビジネス」が背景にあるとする見方が強い。
米ワシントンタイムズ紙のスポーツコラムニストは今回の声明を受けて、ジョーダンに限らず、多くのアスリートは、政治的・社会的な発言を避けることが自らのキャリアやチームにとって必要だと考える傾向があると指摘している。15年間のキャリアでスーパースターとして9000万ドルの給料とスポンサー契約などで12億ドルを稼いだジョーダンは、キャリアを考えれば政治的な発言をして話題を振りまく必要はない。
また現役時代から、自らの名前と、自らがプレーしているシルエットをあしらった「ジョーダン」ブランドのシューズなどを米スポーツ大手ナイキから売り出している。1984年の発売以降、世界的にその人気は維持されており、2015年もジョーダンのシューズやアパレル、アクセサリーは世界中で年間20億ドルを生んでいる。
そんなビジネス的側面から、ジョーダンは政治色などを排除すべく、政治的・社会的問題について発言を避けてきたとみられている。事実、現役時代のこんなエピソードが残っている。ノースカロライナ州で1990年に、超保守派の白人共和党員ジェシー・ヘルムズと、シャーロット市の黒人市長ハーベイ・ガントが争う上院議員選挙が行われた。そこでガント陣営は、NBAのスーパースターで同じ黒人のマイケル・ジョーダンに支持表明してほしいと依頼した。だがジョーダンは、『共和党員だってバスケットシューズを買うからね』と言って、支持表明を断ったという。
要するに、ビジネスにマイナスに働くことは避ける。しかしここ最近続いている人種がらみの騒動を見るに見かねて、ジョーダンも黙っていられなかった。そして、この問題に対して、影響力のある自分が何らかのインパクトを残そうとした。
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