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考えていることを「見える化」する「売れる商品」の原動力(2/7 ページ)

ブランドビジョンを全員が共有するにはどうすればいいのでしょうか。モチベーションにつなげるためにもトップダウンで落とすのではなく、できるだけ多くの人がビジョン作りに参加することが理想的です。

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コンビニの域を超えたクオリティ

 今は全国に当たり前のようにあるコンビニですが、日本で最初のコンビニが誕生したのは1974年5月のことでした。東京都江東区豊洲にある、セブン-イレブン第1号店がそれです。以来、いくつものコンビニチェーンが登場し、すっかり日本社会に定着しました。

 ところが2000年代に入ってから、日本のコンビニ業界は売り上げが前年割れするような状態になります。この頃になると、市場が既に飽和状態になってきたと指摘されていました。さらにコンビニの存在が当たり前になって新鮮さが失われてきたことに加え、コンビニを利用する世代層の推移とコンビニ業界の内実がマッチしなくなってきたことが大きな要因です。

 これに対しセブン-イレブンの経営陣は、自分たちの企業が社会で果たす役割りをいち早く理解されていて、これからの時代はきちんとしたものを作って丁寧に売っていけば必ず買ってもらえるはずだと確信していたのです。

 セブン-イレブンは早くから“お客さまの立場で”というポリシーを掲げ、質の高いプライベートブランドの開発や、独自に構築したサプライチェーンによる弁当・総菜の販売、住民票の写しを店舗で受け取れる行政サービスなど、さまざまな革新的なことを進めていました。

 しかし佐藤可士和氏は、せっかくのセブン-イレブンのこうした取り組みが、消費者にはほとんど伝わっていないことを指摘されたのです。そして、それらを抜本的に再構築して統一感をもって発信していく、新しいロゴマークや商品デザインを打ち出していきました。それは単なる商品の外装の変更ではなく、セブン-イレブンという企業の根底にある理念を形にして現していく作業になっていきます。

 また従来の「セブンプレミアム」「セブンゴールド」に加え、材質など細部にまでこだわった文具や生活雑貨「セブンライフスタイル」を新たに立ち上げました。この文具類は本当に上質感があって使い勝手がよく、私は今もずっと愛用しています。

 既に利用された方はご存じだと思いますが、大ヒット商品となった「金の食パン」に代表される「セブンゴールド」の商品などは、もはや従来のコンビニ食材の域を超えています。あの「金の食パン」は、開発担当者が「本当においしい食パンができましたよ。焼いて食べるとおいしいのでトーストにしてきました」とでき上がった試作品を持って真っ先に来てくれたことを今でも覚えています。

 ただ、食パンはトーストにすればそれなりにおいしくなるのは当たり前なので、私は焼く前のものも食べさせてほしいとお願いしました。そして食べてみたら、言われる通り本当においしかったのです。値段を聞いたら、1斤で250円と従来のプライベートブランドの食パンの倍近い価格です。しかし、鈴木会長をはじめセブン-イレブンの開発チームには、「必ず共感を得られるはずだ」という明確な思いがありました。

 それが見事に的を射たことは、このブランディングの成功が雄弁に物語っています。

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