廃線危機から再生、「フェニックス田原町ライン」はなぜ成功したか?:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/5 ページ)
福井県のローカル鉄道、福井鉄道とえちぜん鉄道が相互直通運転を開始して3カ月。乗客数が前年同期比2.9倍という好成績が報じられた。「幸福度ランキング1位」の福井県は、鉄道を活用して、もっと幸福な社会を作ろうとしている。
幸福度1位、クルマ社会1位の福井県が鉄道にこだわる理由
福井県が鉄道にこだわる理由は、自動車依存社会から脱却したいからだ。2007年の調査で、福井県の1世帯あたりの自動車保有数は約1.77台で全国1位。交通手段における自家用車の割合も76.6%で全国1位となっている。この数字は福井県の住みやすさと関係がありそうだ。日本総研や法政大学などの調査によると、客観的な指標に基づく幸福度ランキングで福井県はトップクラスの常連である。これがマイカーの普及となって現れた。
しかし、マイカーの普及に伴って鉄道離れが起きた。京福電鉄は安全費用も捻出できないほど低迷し、福井鉄道はいくつかの支線を廃止した。残された本線の福武線も廃線の危機となった。公共交通の衰退はますますマイカーに依存させる。その循環が続いた結果として、福井県はクルマを持たない市民にとって住みにくい環境になった。
将来、高齢者がクルマを手放すときに、クルマ依存社会では困る。自然環境の維持、二酸化炭素(CO2)削減など時代の要請に応えるためにも公共交通は維持したい。もちろんそこには京福電鉄事故とバス代行の苦い経験がある。脱クルマ社会を推進する福井県としては、公共交通を強固にしたい。鉄道を幹としたバス路線網を築きたい。そのために、福井鉄道とえちぜん鉄道の直通運転は必要だった。
直通運転開始後3カ月のデータは、まだまだ満足できる数値ではない。しかし、この基幹軸を前提とした公共交通網がこれから整備される。1つの駅で、廃線の危機から立ち直った鉄道がつながった。その効果は福井県民の幸福度をますますアップさせるに違いない。
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