ブランドは誰をどう喜ばせるのか:「売れる商品」の原動力(3/5 ページ)
ブランドは誰をどう喜ばせるのでしょうか? ブランドを育てるとき、「情緒的価値」を明確に思い描くことが、自分の幸福にもお客さまの幸福にも不可欠な要素です。
ピントの合ったターゲット設定
私がブランドビジョンの設定をその企業の社員の方たちと進める際は、ターゲットになりそうな実在の人物の名前を挙げてもらいます。周囲の人がその人物を知っているかどうかは関係ありません。
そのブランドを育てたいと考えている社員が、具体的に“この人に喜んでほしい”と想定できる誰かをイメージすることはとても重要です。具体的な名前を挙げてもらった上で、「なぜこの人に喜んでもらいたいと考えたのか」「この人のどういう価値観がこのブランドに共感すると思ったのか」そのことを考えてもらうようにしたほうが、よりターゲットとして想定される価値観が鮮明に浮かび上がってくるのです。
いわば、その喜んでいただきたい“一人の人”のために、チーム一丸となって徹底的に準備をする。それでこそ“情熱の総量”も高まっていきます。もちろん、これはその“一人の人”以外を排除するというようなことではありません。譬えて言えば、人込みの中で誰かにピントを合わせて写真を撮るようなものでしょうか。どこにもピントが合っていない写真は、大勢の人が写り込んでいても、雑然としているだけで凡庸になりがちです。レンズが狙うべき誰かにしっかりフォーカスしてこそ、全体も生き生きと見えてくるものです。
別の言い方をすれば、一人を満足させられない商品が、大勢の人を満足させられるわけがないのです。一人の人を真に喜ばせられれば、百人でも千人でも喜ばせることができるでしょう。そういう意味でも、“誰に喜んでもらいたいのか”のイメージ像は、できる限り具体的な“顔”として定まることが大切なのです。
あのルイ・ヴィトンは、旅行用カバンの専門店として19世紀に誕生しました。そのブランドが時代の波を乗り越えて世界に君臨し続けているのは、王室などセレブリティーに明確なターゲットを置いて、その人たちに喜んでもらう商品を作るという意志を変わらずに持ち続けているからだと私は思っています。
実際には、今日ではお金を出せば誰でもルイ・ヴィトンの商品を買うことはできるわけですし、世界全体で同社の製品を買っているお客さまの数から考えると、王室などセレブリティーの顧客は1パーセントにもならないかもしれません。しかし、なぜ多くの人がルイ・ヴィトンというブランドに魅力を感じるかといえば、それが本来セレブリティーのために用意された品質であるという共通の了解があるからなのです。
もしもルイ・ヴィトンがそこを手放してしまえば、人々がルイ・ヴィトンに憧れる理由がなくなってしまうのです。これは単に、高級ブランドを目指してブランディングを行おうと言っているのではありません。あくまでも、ターゲットの設定はできるだけ鮮明にした方が、ブランディングの成功に向けて近道であることをご理解いただければと思います。
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