ローカル線足切り指標の「輸送密度」とは何か?:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/5 ページ)
「輸送密度が○○人以下の赤字路線」など、赤字ローカル線廃止問題の報道で「輸送密度」という言葉が登場する。この輸送密度という数値の意味は何か。国鉄時代から取りざたされた輸送密度の数値を知ると、現在の赤字ローカル線廃止問題を理解しやすい。
輸送密度とは何か
さて、ここまで何度も出てきた「輸送密度」とは何か。これは鉄道路線の利用度を示す指標の1つだ。公共交通機関ならではの事業評価方法と言える。民間企業の事業評価は「黒字か赤字か、赤字なら回復の見込みがあるか、その需要はあるか」となる。しかし公共交通事業の場合は、損益よりも需要の有無が重要になる。一定の需要があり、他の事業の収益で補填できるなら廃止できない。公共性の維持が企業の趣旨である。
輸送密度とは「1日1キロメートルあたり、どのくらい運んだか」という指標だ。鉄道は人だけではなく貨物も運ぶから、単位は「1キロメートルあたり○○人/日」または「1キロメートルあたり○○トン/日」となる。このうち旅客については「1日1キロメートルあたり平均通過人員」と記され、単位は人/日と記される。
鉄道路線やバス路線の輸送量を比較する場合、単純に利用人数を数えても意味がない。どの路線も全区間を通して乗る人は少ない。途中の駅から乗り、途中の駅で降りる人もいる。「一部区間を乗る人が90人、全区間を乗る人が10人の路線」と、一部区間を乗る人が10人、全区間を乗る人が90人の路線が同じ「利用者100人」になってしまう。そこでまず、利用者ごとに利用した距離を計算する。これを「人キロ」という。
ただし、単純に人キロを比較すると、長距離路線は数字が大きくなりやすく、短距離路線の数字は小さくなりやすい。そこで、利用率を比較するために、人キロを路線の距離で割る。1キロメートルあたりの利用者数で比較するわけだ。
さらに、平日と休日、盆休み、年末年始などで利用者数を加味したい。通勤路線では平日の利用率が高く、観光路線では休日の利用率が高くなるからだ。そこで、1年の利用者数の合計から1日あたりの利用者平均を算出する。これが1日1キロメートルあたり平均通過人員である。単純に平均通過人員と表記される場合も多いし、旅客輸送に限った話では、平均通過人員の意味で輸送密度と称する。
これを数式で表すと、
「調査期間の人キロ」÷「路線の距離(キロメートル)」÷「期間内に営業した日数」
となる。調査期間はほとんどの場合、企業会計年度だ。つまり、4月1日から3月31日まで。「期間内に営業した日数」で割る理由は、閏(うるう)年はもちろんだけど、年度の途中で廃止したり、開業した場合を考慮しているからだ。365日営業した路線と、180日しか営業していない路線では、短期間の路線の方が平均値が高くなってしまう。ただし、災害や事故で運休した期間は含まない。「営業期間でも乗客ゼロだった日」として、路線の実績に反映させるからである。
また前述のように、輸送密度は貨物輸送の評価基準でもある。路線の存廃にあたっては、単純に平均通過人員だけで評価できない。平均通過人員と平均通過トン数の両方を考慮する必要がある。もっとも、日本の旅客鉄道のほとんどにおいて、貨物輸送はゼロまたは比率が小さいので、主要幹線以外は考慮されない。石北本線は本州向けタマネギ輸送で知られているけれども、JR貨物は自治体の援助がなければ廃止の方針だった。逆に、旅客輸送が小さくて貨物輸送が多い場合は、貨物専用線として考えるべきだ。
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