えっ、「介護」って造語なの? 市場をつくった“生みの親”に聞く:水曜インタビュー劇場(アイデア公演)(3/6 ページ)
「フットマーク」という会社をご存じだろうか。東京の両国に拠点を置く、従業員60人ほどの会社だが、これまで2つの市場をつくってきた。1つは「水泳帽子」、もう1つは「介護おむつカバー」。一体、どのようにして市場をつくってきたのだろうか。
「断わる」選択肢はなかった
土肥: なるほど。「醤油を貸してくれませんか?」と言われれば、「はい、どうぞ」と渡すだけ。でも、赤ちゃん用のおむつカバーをつくっているからといって、「大きめのおむつカバーをつくってくれませんか?」と言われると、「面倒だなあ。時間もかかるし、断ろう」と思わなかったのですか?
磯部: そんなことは全く考えませんでした。例えば、引っ越し。いまは引っ越し業者があるので、そうした会社に作業をお願いすればいい。でも、昔は友人や近所の人にお願いしていたんですよね。それが当たり前だったんですよ。助けたり、助けられたり、といった“お互いさま”の文化が根付いていたので、「大きめのおむつカバーをつくってくれませんか?」と言われても、「断わる」という選択肢はなかったですね。理屈の問題ではありません。
土肥: ふむふむ。
磯部: いま振り返ってみると、そのお嫁さんは「大きめのおむつカバーをつくってくれませんか?」とお願いするのに、勇気がいったと思うんですよ。
土肥: どういう意味ですか? 醤油を貸し借りできる仲なんですよね。何でも言い合える、お互いさま文化があったはず。
磯部: それはそうなのですが、当時は「家族の人間がおもらしをする」ということを他人にはなかなか言えなかったのではないでしょうか。いまは行政や民間の会社がいろいろ支援してくれるので、介護に関してオープンな社会になりつつある。しかし、当時はクローズだったんですよね。「家族で体の不自由な人間がいる=恥ずかしいこと」といった雰囲気があったので、多くの人はそのことを隠していました。今が良くて、昔が悪かった、という話ではなくて、当時はそういう時代だったんですよね。おむつの話だけではなく、病気を患っていることを他人に話をする人は少なかった。
そして、このようなことを考えました。「お嫁さんの義父が困っているということは、全国に同じような悩みを抱えている人が多いのでは」と。マーケティングがどうのこうのといった難しい話ではなくて、直感的にそう感じました。
関連記事
- 「YAMAHA」のプールが、学校でどんどん増えていったワケ
「ヤマハ発動機」といえば、多くの人が「バイクやヨットをつくっている会社でしょ」と想像するだろうが、実はプール事業も手掛けているのだ。しかも、学校用のプールはこれまで6000基以上も出荷していて、トップブランドとして君臨。なぜ同社のプールが増えていったのかというと……。 - “手先が伸びて縮むだけ”のロボットが、「在庫ゼロ」になるほど売れている理由
「ロボット」と聞けば、複雑な動きをするモノ――。といったイメージをしている人も多いと思うが、手先が伸縮するだけのロボットが売れている。トヨタ自動車やオムロンといった大企業が導入していて、現在の在庫は「ゼロ」。なぜ多くの企業が、単純な動きをするロボットを求めているのか。 - 眼鏡がいらなくなる? 世界初の「ピンホールコンタクトレンズ」にびっくり
近視や老眼をコンタクトレンズ1枚でカバーできる「ピンホールコンタクトレンズ」をご存じだろうか。現在、臨床研究を進めていて、2017年度中の商品化を目指しているという。どのような原理でできているかというと……。 - なぜ学校のプールで「水泳帽子」をかぶるのか 知られざる下町企業のチカラ
プールの授業で使っていた「水泳帽子」はどこのメーカーでしたか? このように聞かれて、即答できる人はほとんどいないはず。多くの人は考えたこともないだろうが、いまから50年ほど前に水泳帽子が生まれ、市場をつくってきた会社がある。東京の下町にある「フットマーク」という会社だ。 - 生産中止! 大苦戦していたブラックサンダーが、なぜ“売れ続けて”いるのか
30円のブラックサンダーを食べたことがある人も多いはず。年間1億個以上も売れているヒット商品だが、発売当初は全く売れなかった。一度は生産中止に追い込まれたのに、なぜ“国民の駄菓子”にまで成長することができたのか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.