えっ、「介護」って造語なの? 市場をつくった“生みの親”に聞く:水曜インタビュー劇場(アイデア公演)(6/6 ページ)
「フットマーク」という会社をご存じだろうか。東京の両国に拠点を置く、従業員60人ほどの会社だが、これまで2つの市場をつくってきた。1つは「水泳帽子」、もう1つは「介護おむつカバー」。一体、どのようにして市場をつくってきたのだろうか。
「市場」が生まれて複数の会社が競争する
磯部: 使用料をいただいていたら「お城」が建っていたかもしれません(笑)。それは冗談として、介護を必要とする人たちに向けて商品やサービスを提供している会社に対し、「当社が登録していますよ。独占していますよ」というスタンスは間違っているのではないでしょうか。
もちろん、商標を取得したことで、当社は優位な立場に立つことができます。ただ、1社が独占することによって「良さと悪さ」があるのではないでしょうか。当社だけが「介護」という言葉を使っていたら、介護に関係する商品やサービスが広がっていなかったかもしれません。複数の会社が競い合うことによって、市場ってできていくものだと思うんですよ。例えば、自動車メーカーや家電メーカーはたくさんありますが、そうした企業が競争してきたことで、市場が活性化してきました。
複数の企業が競争することで、市場が生まれる。市場が生まれたことによって複数の企業が競争する。これが健全な姿。当社が「介護」という言葉を独占的に使ったところで、実際に介護を必要とする人たちにとっては何のメリットもないですからね。そうであれば、私たちが独占すべきではないんです。
土肥: フットマークは水泳帽子や介護おむつカバーなど、これまでになかった商品を開発して、市場をつくってきました。当時、商品を開発しながら、商品を売りながら「オレたちが市場をつくっていくんだ」という意気込みがあったのでしょうか?
磯部: 全くないですね。これまでたくさんの商品をつくってきましたが、私ひとりで考えてつくった商品はひとつもありません。介護おむつカバーは近所のお嫁さんが自宅を訪ねて来てくださったから。水泳帽子は学校の先生、ご父兄、子どもたちからたくさんの意見をいただいたから。と同時に、時代背景があったので市場が生まれたのではないでしょうか。
土肥: これまで成功した商品を紹介してきましたが、失敗したモノもあるんですよね。
磯部: それはもうたくさん。アイデア段階で終わったモノ、試作品で終わったモノ、製品にならなかったモノを合わせると、実際に世の中に出たモノに比べて何十倍にもなるでしょう。
土肥: これからも新しいモノづくりは終わらない?
磯部: 終わりません。私の頭の中は「何かいい商品はないかな?」といったことばかり考えていますので。
(終わり)
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