続発するハッキング事件が暗示する本当の「脅威」とは:世界を読み解くニュース・サロン(3/5 ページ)
世界的にハッキング事件が頻発している。ハッキングが横行する中、欧米のサイバーセキュリティ専門家らの間である懸念が取りざたされている。その懸念とは……。
公表する価値がある情報なのか
ICIJは今回のリークによって、バハマで設立されている企業のデータをまとめたタックスヘイブン検索サイトを立ち上げている。実は、この企業データはバハマに行けば合法的に見ることができるという。にもかかわらず、ICIJは「(バハマで)企業の登録情報を検索するのに少なくとも10ドルかかる。これは検索料金を徴収しないよう促している国際的な企業の登録協会の勧告に矛盾する」ために、ICIJのサイト内で情報を勝手に公表すると主張している。
検索に料金が……という理由は説得力がないし、そんなことはジャーナリスト団体がするべきことなのだろうか。ICIJはジャーナリスト組織と自称する活動団体だということなのか。さらにいうと、130万点におよぶ企業情報のリークによって、バハマ政府は最大で1300万ドルほどの損害を受ける可能性がある。
それはともかくとして、その検索サイトにアクセスするとこんな言い訳がましいメッセージが現れる。「私たちは、ICIJのタックスヘイブン・データベース(同連盟の立ち上げた企業検索サイトのこと)に含まれている人や会社、その他の組織が、法を犯していたり、または不適切な行動をしていると主張したり、ほのめかしたりする意図はない」。
個人情報をインターネットで勝手に公表することで訴訟問題になりかねない、と考えるとこういう対処は不可欠なのかもしれないが、そこまでして公表する価値がある情報なのか。「パナマ文書」でも指摘された通り、タックスヘイブンにペーパー会社を作っても違法でない場合がほとんどで、必ずしも、よく言われる「税金逃れ」ともならない。「バハマリークス」のケースでは、EU(欧州連合)の元副委員長やコロンビアの元大臣が、企業の役員をしていたことが判明している程度であり、現在のところ、それ以上に価値のある情報はほとんどなさそうだ。
ならば、リーク、または、盗まれた企業データを公表することに、「検索料金」がなくなる以外でどんな公益性があるのか。だいたい、ジャーナリズムが行う公益性のある報道なら、「言い訳がましいメッセージ」は必要ない。
要するに、「パナマ文書」も「バハマペーパー」も、基本的にWADAや米民主党などのハッキング事件と大して変わらない。ウィキリークスや元米軍のチェルシー・マニング、元CIA職員のエドワード・スノーデンらが行ってきた「内部告発」とは性質が異なる。誰かが民間企業や行政組織(バハマの場合は法人登記部門)からサイバー攻撃などで情報を盗み、ジャーナリスト組織がもっともらしい理由をつけて公表しているだけに過ぎないと考えられるからだ。
犯罪行為で盗まれた可能性が高い、公益性の低い情報を「ジャーナリズム」として公表するICIJの行為は、どこかの犯罪者がハッキングで情報を盗む行為を助長しかねないのである。
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