なぜ自動運転はタクシー・バスと相性抜群なのか(5/5 ページ)
自動運転技術――。その実用化は公共交通機関で加速すると言われており、既に世界各地でその予兆が見えはじめている。世界初の自動運転タクシーサービスを開始した米国のベンチャー企業nuTonomy(ヌートノミー)、自動運転小型バス「ARMA」を公道で走らせるBestMile(ベストマイル)の取り組みなど、最新の事例を交えながら解説しよう。
加速する自動車メーカーとライドシェアの提携
ところで、ここまで書いてきたことは、ライドシェアの形態に通じる。現にnuTonomyでは、スマートフォンのアプリでタクシーの呼び出しや目的地の設定を行う。BestMileのアプリはバスの位置や到達時間を見ることができる。両社とも将来的に本格的なサービスに移行した際は、ライドシェアのようにアプリ上で料金決済も行えるようになるだろう。
以前、タクシーとライドシェアの対決の構図を書いた記事で、自動運転が実用化されれば、タクシーやバスとライドシェアは同一のものになると書いた。その理由が、NuTonomyやBestMileの実験内容とライドシェアのサービス内容を照らし合わせれば理解できるだろう。しかもUber(ウーバー)をはじめ、ライドシェア企業もまた自動運転での運用を目指している。人件費削減が目的であろう。
今年は自動車メーカーとライドシェアの提携話が目立つ。米国ゼネラルモーターズ(GM)は同国のLyft、ドイツのフォルクスワーゲンはイスラエルのGettに出資し、トヨタ自動車と提携したUberはその後、スウェーデンのボルボとも手を組んだ。フォードも2021年に実用化する自動運転車をライドシェアで展開すると表明している。
自動車メーカーがタクシーやバスではなく、ライドシェア企業と手を結ぶのは、従来のタクシーやバスはドメスティックな組織だったのに対し、ライドシェアはグローバルな組織であり、多くの需要が見込めるからだろう。
しかしnuTonomyはタクシーと称してはいるものの、シンガポールのタクシー会社ではない。自動運転と車両運用をつかさどるIT企業だ。立ち位置はライドシェア企業に近い。一方、同社が使用するルノー「ZOE」と三菱「i-MiEV」は、三菱が日産自動車傘下に入ったので、同一グループの車両と見なすことができる。
自動車メーカー側は明らかにしていないし、nuTonomyが今度どこまで成長するかは未知数だが、既にライドシェア企業と提携を発表しているトヨタ、フォルクスワーゲン、ゼネラルモーターズに続く、4番目のグループであるルノー・日産アライアンスが、同様のスキームを手に入れたと言えるかもしれない。
どちらがどこまでの技術を担当するかは個々のスキームによって異なるものの、今後の自動車業界は製造企業と運用企業のタッグが不可欠になりそうだ。
筆者プロフィール:森口 将之
1962年東京生まれ。モータージャーナリスト、モビリティジャーナリスト。移動や都市という視点から自動車や公共交通を取材。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本デザイン機構理事。日本自動車ジャーナリスト協会、日仏メディア交流協会、日本福祉のまちづくり学会、各会員。著書に「パリ流 環境社会への挑戦」「富山から拡がる交通革命」「これでいいのか東京の交通」などがある。
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