ダイハツの女性仕様車にまだ足りないもの:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/4 ページ)
ダイハツの軽自動車「ムーブ・キャンバス」は女性ターゲットのクルマだという。確かに両側電動スライドドアなど女性の使い勝手を考えた便利な機能が備わっているが、一台のクルマとして本当に女性の喜ぶものになっているのだろうか?
ドアだけで女性仕様と言えるのか?
ムーブ・キャンバスはかなり一生懸命作ってある。だがしかし、ユーティリティ面ではその努力の跡があるのだが、メカニズムの領域のエンジニアはそのとき本当に女性の気持ちになろうとしたのか疑問が残る。 真面目であるが故に、いつものエンジニアに戻って理詰めで考えていたのではないかと思う。試乗車に同乗していた女性編集者が「何だか男っぽいクルマですね」と発言したのを聞いて、筆者はちょっと考え込んだ。
背の高いボディは重心が上がって頭が重くなる。ましてや両側スライドドアで重さはかなりのことになっている。そういう車体のロールを抑え込もうとすれば、ばねは硬くするより仕方がない。実は筆者も、件の女性編集者に対してムーブ・キャンバスの乗り心地をそう擁護した。しかし、それはあくまでもエンジニアリングの都合である。「良いモノが欲しい女性」に向けた商品がそれでいいのかと思う。穏やかで平和な乗り心地がこの商品には必須だったのではないか? 少なくとも彼女の意見はそうだった。
頭上を見上げてみると、不必要に天井が高い。実はダイハツの軽自動車はルーフの高さ別に3つの基本車種がある。一番低いミラ系、真ん中のムーブ系、高さが売りのタント系だ。ついでと言っては悪いが、この上に限界まで高くしたウェイクという特殊なモデルも存在する。
車名から分かる通り、ムーブ・キャンバスはその真ん中である。軽自動車の全長全幅は例外なく規制枠いっぱいの3395ミリ×1475ミリだ。広さを変えるには高さを変える以外に方法はない。スズキの初代ワゴンRがワンボックス的な背高ボディでヒットを飛ばして以来、軽自動車は一斉に上に向かって丈を伸ばし始めた。加えて排気量が660ccに引き上げられたことで多少目方が増えても十分に走らせられるようになって、軽の価値が一気に向上した。それが少し前までの軽自動車黄金時代を支えてきたわけだ。
結果、少しでも背を高くした方が、より商品力が上がるという錯覚が起きる。しかしエンジニアなら先刻ご承知のように、代替なしで手に入る機能はない。あらゆる機能はトレードオフなのだ。広い空間はなるほど素晴らしい。しかしこれを削ってもし乗り心地が改善できるなら、空間に少し贅沢(ぜいたく)をし過ぎなのではないか。
もっと空間的に贅沢なタント系がなければ話は別だが、ムーブ系は乗り心地が穏やかにできるところまでルーフを下げたら、両車の商品特性がよりはっきりするはずである。
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