富士通が島根でロボット生産に踏み切った理由(3/3 ページ)
富士通のPC生産子会社の島根富士通が、ロボットの生産に乗り出した。PC製造で培ったノウハウなどを生かすことで、新たな事業として立ち上げ、今後のビジネス成長のドライバーにしたい考えだ。
国内メーカーがロボット生産に乗り出すわけ
国内メーカーのPCの生産拠点がロボットの生産に乗り出すのにはわけがある。
最大の原因は、PC市場の縮小だ(関連記事)。IT調査会社の米ガートナーによると、2016年における全世界のPC出荷台数は約2億3200万台と予測されており、2012年の3億4300万台の約3分の2に減少。これは日本においても同様で、MM総研によると、2016年の国内PC出荷予測は933万台。2012年の1521万2000台に対して、約4割減へと縮小している。
PC市場の縮小とともに、PCの生産拠点が存続するためには、PC以外の生産品目を模索する必要が出てきたというわけだ。
そうした厳しい状況は富士通にとっても他人事ではない。10月27日に世界最大のPCメーカーであるレノボグループと戦略的提携を検討していることを発表。事業統合も視野に入れた検討が進められている模様だ。既にレノボグループの傘下でPC事業を行っているNECパーソナルコンピューテイングは、山形県米沢市の米沢事業場でPCを生産。富士通が持つデスクトップPCの生産拠点である福島県伊達市の富士通アイソテックを加えると、国内の生産拠点が過剰になるとみられる。そうした点でも、PCの生産拠点自らが存続のための新たな道を模索する必要に迫られているのだ。
既に先行事例も出ている。ソニーからPC事業を分離して、国内外でPC事業を展開しているVAIOは、既に富士ソフトのコミュニケーションロボット「Palmi(パルミー)」や、トヨタ自動車の「KIROBO mini(キロボミニ)」などを、本社がある長野県安曇野市の安曇野工場で受託生産している。
安曇野工場は、ソニー時代に、犬型ロボット「AIBO」を生産した経緯があり、ロボットの受託生産には、そのノウハウを活用しているという。なおAIBOは、1999年の発売から、2006年の生産終了まで、15万台を出荷。2014年春のサポートを終了している。
VAIOの大田義実社長は、「2017年度には、PC事業の収益と、ロボットを軸とした新規事業の収益を同等規模にまで引き上げたい」としており、ロボットの受託生産を、PC事業と並ぶ経営の柱に育てる考えを示している。
メーカー各社にとって、PCの国内生産拠点の新たな活路として、ロボット生産は重要な事業戦略になりそうだ。
著者プロフィール
大河原克行(おおかわら かつゆき)
1965年、東京都出身。IT業界の専門紙である「週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を務め、2001年10月からフリーランスジャーナリストとして独立。BCN記者、編集長時代を通じて、25年以上にわたり、IT産業、電機業界を中心に幅広く取材、執筆活動を続ける。現在、ビジネス誌、Web媒体などで活躍。PC Watchの「パソコン業界東奔西走」をはじめ、AVWatch、クラウドWatch、家電Watch(以上、インプレス)、日経トレンディネット(日経BP社)、ASCII.jp(KADOKAWA)、ZDNet(朝日インタラクティブ)などで連載記事を執筆。夕刊フジでは「まだまだスゴい家電の世界」、中日新聞では「デジモノがたり」を連載中。著書に、「松下からパナソニックへ 世界で戦うブランド戦略」(KADOKAWA)、「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社)、「図解 ビッグデータ早わかり」(KADOKAWA)などがある。近著は、「究め極めた『省・小・精』が未来を拓く――技術で驚きと感動をつくるエプソンブランド40年のあゆみ」(ダイヤモンド社)。
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