新規事業における3つのリスク:厄介なのが(2/2 ページ)
「現状維持リスク」「失敗リスク」「副作用リスク」の3つのうち見過ごされやすいのが「現状維持リスク」である。事態が表面化して「予想外だ」と嘆く前に、できることはある。
以上3つのタイプのリスクのうち、最も厄介なものが一つめの「現状維持リスク」である。
他の2つは、新規事業の検討チームから具体的な案が上がってきた段階で、経営に責任のある人物であれば嫌が応でも気になるはずで、「突っ込み」を入れるのが自分の役回りだと意識されている人も少なくなかろう。
しかし「現状維持リスク」というのは、きっかけがないまま見過ごされてしまいかねない類のものだ。なぜなら大多数の人の思考パターンでは、過去から現在にかけての経営環境を前提に、その延長線上で課題を捉え将来像を描きがちだからだ。そのため「このまま同じことをやっていていいのだろうか」という問いを発すること自体に思考が向きにくいのだ。
経営環境は常に変わりうると頭では分かっているのに、そして変化の兆候は既に表れているのに、具体的で顕著な変化が表面化するまでその潮流にほとんどの人が気付かない。そして無視できない結果が現れるとつい口走る、「予想外だ」「想定外だ」と。われわれはそうした事態を、東日本大震災の際にも、BREXIT(英国のEU離脱)でもトランプ氏の当選でも繰り返してきた。
この事態は情報過多の現在でさえも生じる、いやかえって頻発するといってよい。なぜならマスコミやネット上で、同じ内容の情報が言い換えられながら繰り返されるため権威づけされ、たとえ現時点では間違っている情報であっても、今も真実だと思い込まされやすいからだ。自分の周囲の人たちや情報源が同質的であるとき、その傾向は余計にひどくなる。
したがって「現状維持リスク」を正しく認識するためには、同質的でない見方をする「よそ者」の要素を経営体制や新規事業プロジェクトの体制には取り込むべきだろう。世間ではガバナンス強化やコンプライアンスばかり強調されるが、これこそが本来は社外取締役の役目ではないか。
そして外部環境の変化がもたらす重要なリスクにいち早く気付くためのシステマチックな方法論も存在する。「シナリオ・プラニング」がその代表的なもので、きちんと行えばという条件付きではあるが、重要なリスクをあぶりだすことは思ったほど難しくない。是非試してみることをお薦めする。(日沖博道)
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